報酬目当てで急性期医療に手を出す病院も

コロナ患者、および疑い患者の搬送困難事例が伝えられる中で、平時から救急搬送受け入れの義務化を通じて「24時間365日断らない」病院を整備・支援していくということは必要に思える。加えてそうした方向性には、救急搬送の問題のみならず、長らく医療提供体制の課題だった、病院の機能強化・分化を促す面もあるだろう。

現在の日本の医療提供体制では中小規模の民間病院が乱立しており、救急医療に携わる急性期病院であっても救急専門医が1人しか常駐しない病院もある。また、看護配置の高い病院に手厚い診療報酬を設定していたこともあり、実際には急性期の患者の診療実績が乏しい病院まで急性期医療に参画してしまっている。

地域医療構想における「高度急性期」および「急性期」の病床割合は約6割にのぼっており、急性期の医療機能が集約化されていないこともたびたび指摘されている。言葉は悪いが、困難な患者の受け入れは断ってしまえるので、多くの病院が診療報酬上のメリットを目当てに急性期医療に手を上げているという実態もあるだろう。

乱立する中小民間病院の統廃合が必要だ

一方、ER型で実施されている「24時間365日断らない医療」のためには、人材を含めて多くの医療資源をその病院に集中する必要があり、弱い機能の病院では難しいことから、おのずと医療機能の分化が進む。既に高い水準にある医療者の労働負担を下げながらこうした強い病院を作ることは集約化なしには難しく、多すぎる病院の統廃合も実際には必要だろう。少なくとも、搬送を断らない病院は日本国内に既にあり、そうした病院のノウハウや知見がもっと広く共有され、診療報酬上も高く評価される必要がある。

加えて、病院の機能分化・強化を進める政策は、そのまま未知の新興感染症への対策にもなる。コロナ禍では急性期の医療機能が分散されているために、強力に患者を受け入れる病院がなく、そのために医療連携がすぐに困難になってしまった。

例えば、重症化した患者を診る大規模病院であっても、コロナ対応の集中治療室が10床程度であれば感染拡大に伴いあっという間に満床になってしまう。そうなると近隣の中等症を受け入れる病院も、重症化リスクの高い患者を受け入れることに躊躇してしまう。結果として医療システム全体が逼迫し、患者が必要な医療を受けられないケースも出てしまった。