どのような患者が受け入れを断られているのかというと、まず「コロナ疑い」の患者の搬送が困難になっているようだ。自宅療養中に症状が悪化した患者でも搬送段階ではPCR検査の結果が出ておらず、陽性が確定していない場合がある。そうした患者は通常の患者と同じように、コロナ対応していない病院も含めて搬送先が選定される。当然、「もしもコロナだったら……」と考える病院は受け入れを断ることになる。
一方、陽性が確定している患者の受け入れはいわゆる「重点医療機関」を中心に担われている。重点医療機関とは、新型コロナウイルス感染症患者あるいは疑い患者用の病床確保を行っている病院のことで、確保しているすべての病床で中等症の患者を積極的に受け入れることが期待されている。重点医療機関は空床確保料をもらっていることもあり、基本的にコロナ患者の受け入れを断らないことが想定されているが、実際には「直前まで診ていた一般診療の患者のベッドをすぐに開けられない」等の理由で断るケースもある。
救急患者を断れる日本、断らないアメリカ
コロナに限らず、「緊急の患者を断れる」というのは、平時から続く日本の医療提供体制の特徴でもある。例えば、平時から東京では1%程度の搬送が搬送困難事例となっている。医療事故が相次ぎ診療報酬も削減された2006年前後には、患者のたらい回しが社会問題化し「医療崩壊」と呼ばれた。
「患者を断る病院」という報道に長い間慣れきっていると、救急医療とはそういうものかと思ってしまうが、患者の「たらい回し」は海外では日本のような社会問題には発展はしてない。
最も有名な例は米国だろう。米国では1986年に制定されたEmergency Medical Treatment and Active Labor Act(EMTALA法)で、病院が救急患者に対して適切な診療を行わない場合には罰則の対象となっている。当時米国では、無保険者が民間病院に救急搬送の受け入れを拒否されることが社会問題化しており、EMTALA法はその解決策として制定された。
なお、EMTALA法は救急車内にいる病院搬入前患者の搬送要請には適用されていないので、「ベッドが満床なので断る」ということは依然として可能だ。そのため、日本の上記のような搬送困難事例の解決策として考えるのは必ずしも正しくないが、「どんな救急患者でも受け入れる」という救急医療提供体制はER型(北米型)と呼ばれており、近年日本でも地域的に導入するところが増えてきている。
例えば、東京ベイ・浦安・市川医療センターでは「24時間365日断らない」ことを救急外来のポリシーとして掲げている。こうした強固な救急医療体制の整備は、延び続ける搬送時間の短縮にも有効だ。筆者がER型を日本で実施している医師たちと2019年に共同で行った研究では、浦安・市川や鎌倉といったER型が実施されている地域では、搬送時間が隣接地域と比較しておおむね5分程度短かった。