※本稿は、川野泰周『精神科医がすすめる疲れにくい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
技術革新により情報が流れ込み続けてくるようになった
このような経験はありませんか?
・会議中に違うことを考えていて、名前を呼ばれてハッとしてしまう
・電車の中でスマートフォンを見ていて、気がついたら乗り過ごしそうになった
・失敗した体験の記憶が頭の中でぐるぐる回って、1日が過ぎてしまう
これらは、「今この瞬間に注意を向けられていない」ことの表れなのです。いい換えると頭の中で考えている「想像の世界」に意識が飛んでいって、目の前のこと以外の異次元へトリップしてしまうようなものです。
大昔は、日々の生活行動も仕事も今よりとてもシンプルでした。効率的に物事を進めてくれるコンピュータも、機械さえも無かった時代のことです。商品を仕入れる、棚に並べる、買い物に来た人に説明する、商品を売る。一つひとつの作業に専心する、いわゆる「シングルタスク」で仕事を進めることが、意識しなくてもできていました。
知り合いとの連絡すら、自分の手元に親書や手紙が届くまでひたすら「待つ」ことしかできなかったのです。追跡サービスで配送状況を確認したり、今すぐにチャットで相手に連絡するなどということはできなかったのです。
しかし、技術革新と共に世界経済が成長し、高速で物や情報のやりとりが進められ、作業効率も飛躍的に向上することで、私たちは様々なことを瞬時に行うことができるようになりました。しかしそれはあくまで、高度な情報機器などが私たちに代わってしているのであり、私たち生身の人間には到底できることではありません。
便利になり、たくさんのことが同時に進められるようになったにもかかわらず、私たちに与えられた時間が1日に24時間というのは変わりません。
24時間の中ですべきことがあふれ、何か1つの作業を行っている最中にまた新しい指示や情報が入ってくるようになりました。その結果、現代を生きる私たちは、常に2つ3つは当たり前のように同時並行で作業をしないと追いつかない暮らしとなりました。脳に入力される情報の連鎖は途切れることを知らず、どこまでも果てしなく流れ込み続けています。
こうしてついに私たちは、「マルチタスク・スパイラル」の中に組み込まれた存在となったのです。