セルフレジ導入で「商品を隠す万引き犯」はいなくなった
当日の現場は大型ショッピングセンターYだった。挨拶のため総合事務所に到着すると、店長は休みで、強面の副店長が対応してくれた。挨拶をすませていつものように注意事項を確認すると、副店長が苦虫を噛みつぶしたような顔で言う。
「ここは、セルフレジでチェッカーをスルーする人が、たくさんいてさ。導入してからは、売り場で商品を隠す人を全然見かけなくなったくらいなんだよね」
この店は将来的に店舗の無人化運営を見据えているようで、店員が商品をスキャンして支払いだけ機械でするセパレート式のセルフレジだけではなく、精算行為のすべてを客がおこなうフルセルフレジも複数台導入している。客に精算の手間を預けることで、確かに人員コストは下げられるかもしれないが、不正行為による被害を考えると、逆に収支が合わない気がしてならない。
「そういう人も、捕まえられるの?」
「はい、何人も扱ってきました。否認する人が多くて、大変なんですよ」
高性能な防犯カメラで「犯意」は確認できる
フルセルフレジでの犯行は、捕捉後に犯意を否認されることが多く、その処理によけいな時間がかかる。悪い目つきで監視スタッフの様子をうかがい、おかしな手つきで商品を隠しているにもかかわらず、精算したつもりだったと居直る人が多いのだ。
一見して、言い訳しやすい環境と思われるからだろうが、各台には比較的高性能な防犯カメラが設置されていて、とっさに思いついたような嘘は通用しない。精算の様子は一部始終記録されていて、その映像からも犯意を確認できるのだ。
「そうなんだ。大変でしょうけど、きょうはセルフレジを中心に警戒してもらえるかな。期待していますよ」
セルフレジを中心にと言われても、商品を手にするところから見ないとなにも始まらない。通常どおりに巡回をして不審者の発見にいそしみ、その結果として、そうした手口を用いる被疑者が現れるのだ。いつもどおり、比較的高価で万引きされやすい商品を手に取る人たちを確認して回ることに決めた私は、化粧品や高級食材などの売り場を中心に警戒することにした。