eスポーツ関係者が5Gを待ち望む切実な理由
第2回全国高校eスポーツ選手権で準優勝に輝いたクラーク記念国際高校。その秋葉原ITキャンパス「情報科」で教諭を務める笹原圭一郎もこう語る。
「専攻で正式に取り扱ってはいないのですが、みんなスマートフォンを使ってゲームをやっています。eスポーツを、娯楽としてのスポーツと捉えたとき、ユーザー数はダントツだと思います。そのスマートフォンで通信が途絶えたり、遅くなってしまったりしたとき、ミスをして負けてしまうのは、勝った方も、負けた方も、なんともいえない気持ちになります。それが5Gになると、それらのトラブルが格段に減ると思います。5Gの普及でeスポーツは、ますます人気が出るでしょう」
加えて5Gで便利になると期待されるのが、大規模な大会を開く際のセッティングである。
いまeスポーツの大会を開く際には、ゲームだけに使う専用回線を引く必要がある。というのは、すでにある回線を共用すると、他に利用者がいた場合、遅延が起きてしまうからだ。
そこで他からの干渉を受けないゲーム用の回線、そして配信用の回線を設営するのだが、3カ月以上前にNTTなどに申し込み、現地の下見をして配線の確認をする必要がある。これが5G時代になると、その場所だけで運用できるローカル5Gを開設することができるようになる。これまでのように有線で回線を引く必要がなく、ローカル5Gの機械を持ってくればいいだけになり、大会運営の手間が大幅に削減されると期待されている。
5Gによって加速するeスポーツの未来
全国eスポーツ選手権の主催者のうちの一社である、株式会社サードウェーブ副社長の榎本一郎は「子どもたちが本気でeスポーツに取り組み、その後の選択肢を増やすためには、高校にeスポーツ部がなければなりません」と、熱く語る。
実は榎本自身、高校野球で甲子園を目指したが叶わず、実業団では肩を壊して野球を断念した経験があるのだ。必死に取り組んだ部活動は、その後の人生にも必ず役に立つ。
IBMやDELLといったPCメーカーで要職を歴任し、PC業界に造詣の深い榎本は、eスポーツに深い理解を持つ。しかし学校でeスポーツ部を作ろうにも、ハイスペックなパソコンがなければ難しい。
「若者の可能性を広げたい。eスポーツを文化にしたい」というサードウェーブ社長、尾崎健介の決断で、パソコンの無償貸与事業が実現することになった。
サードウェーブは全国高校eスポーツ選手権で、定価で約17万円のパソコンを、チームに必要な台数分、期間限定でeスポーツ部に無償で貸し出した。無償貸与の内容は、年度によって変わってきているが、「今後もできるだけ続けたい」と榎本は語る。
5Gになれば、eスポーツはどう変わるか、尋ねてみた。「5Gの世界になったら、クラウド側で処理できる範囲が広がるため、ハードウェアに対するスペック的な依存度が低くなり、より多くのデバイスでeスポーツを楽しめる可能性が増えていきます。環境が整っていくと、『これじゃなきゃダメ』という垣根がなくなることで、ハイエンドパソコンを手掛ける我々にとってネガティブな面もあります。しかし、どんなに環境が良くなっても、ユーザーにとって一番良い製品やサービスが選ばれます。そしてeスポーツに関わる時間が増えます。楽しめる時間とスタイルがどんどん広がるという意味で、5Gに期待しています」