肝心の指示した人物は「不詳」

何より批判が集中したのは、事件の核心部分ともいえる、女性記者に現場へ行くよう指示した人物を「電話やLINEで複数のやりとりがあったため、はっきりしません」とあいまいにした点だ。

取材団のキャップ以下3人の誰かであることは自明で、当の女性記者も、指示した記者も、知らないはずがない。しかも、電話やLINEは記録が残るから、確認する手立てはいくらでもあるだろう。判明はしているが公表しないというのならともかく、調べてもわからないという調査には、誰しもが素朴な疑問を感じざるを得ない。

元北海道新聞記者の高田昌幸東京都市大学教授は、毎日新聞のインタビュー記事で「その程度の社内取材もできないなら、報道機関を名乗る資格などない。もはやお笑いです」と酷評した。

そうした罵倒を覚悟のうえで、北海道新聞は「指示者不詳」という不可解な「調査報告」を出したのだから、そこには、もっと表に出せない事実があったのかもしれないと憶測を呼ぶことになった。

現場の記者に責任を押し付け

一方、逮捕の直接的要件となった会議の模様を録音したり身分を明かそうとしなかったことについて、「女性記者の判断」「キャップの指示」と現場の記者の責任を強調し、新聞社としての責任には言及しなかった。

この点について新聞労連は、記者を守る立場から「現場に責任を押し付けるばかりか、自らの責任逃れが滲んでいる」と経営陣や編集幹部を糾弾する声明を出した。

逮捕者を出すような事件を起こした以上、しかるべき管理者が責任を取り、具体的な改善策を示すことが求められるが、「再発防止に努める」という通り一遍の言葉ですませてしまったのだ。

「調査報告」の内容については、ほかにも数多くの論点があるが、肝心の事実関係すら明らかにできないようでは、とても胸を張って「調査報告」とは言えそうにない。

購読者にしか公表しない時代錯誤な対応

「調査報告」の公表のあり方についても、問題視された。

まず、事件発生から公表まで2週間余りもかかったことが挙げられる。その間、同業の報道各社の取材に対しても、だんまりを決め込んだ。

外部の有識者による第三者委員会ならまだしも、自社の限られた人数を対象にした社内調査なのに、ここまで時間がかかるとは考えにくい。それだけに、事件のほとぼりが冷めるのを待っていたのではないかと、うがった見方まで飛び出すこととなったが、結局、その理由は説明されなかった。

もっと重要なのは、北海道新聞の紙面とネットの会員向けサイトでしか「調査報告」を開示しなかった点だ。つまり、「調査報告」は、あくまで北海道新聞の読者向けであって、北海道新聞の立場や見解を広く訴えて世論の支持や理解を得ようという意思はなかったということになる。