一方、北海道新聞社は、事件直後の6月23日付朝刊に、編集局総務名で「本紙記者の逮捕は遺憾。あらためて説明する」と短いコメントを出しただけ。

その後、沈黙を守り、事件から2週間余り経った7月7日付け朝刊に、事件の「社内調査報告」を掲載、「情報共有や取材方法、記者教育に問題があった」とする見解を示した。ホームページでは登録した会員だけが見られる限定公開とし、記者会見は開かなかった。

――というのが、事件の大まかな流れである。

「炎上」した北海道新聞の対応

「北海道新聞記者逮捕事件」は、発生直後から、主要紙が一斉に報道、ネットでもメディア関係者や有識者がさまざまな視点から問題を提起し、議論百出の様相となった。いわゆる「炎上」である。

その後、しばらく間が空いて事件が忘れ始められかけたころ、北海道新聞が事件に関する「社内調査報告」を紙面に掲載した。

すると、またも、報道機関としての矜持、取材対象との距離感、読者との信頼関係など、メディアの本質的な問題をめぐって議論が噴出、再び「炎上」した。

この事件では、すでに、さまざまな論点が語られているが、ここでは、事件に臨んだ北海道新聞社の対応を中心に、メディアの現状と危機について考えてみたい。

全国的に注目を集めた旭川医大の学長が絡んだ不祥事追及の最中に、取材される側の旭川医大が取材中の新聞記者を私人逮捕したという事実は、それだけでも過去に例を見ない異常な「事件」だった。

だが、もっと異常だったのは、北海道新聞社が事件に対して取った一連の対応だ。はたして報道機関として適切だったといえるのかどうか。その後の経緯を見れば一目瞭然で、メディア界を揺るがす事態に発展してしまった。

自社の記者を「さらし者」にした

まず、事件直後の対応について。

旭川医大の構内で私人逮捕されて旭川東署に身柄を引き渡された女性記者は、釈放されるまで2日間留め置かれた。

建造物侵入の容疑自体は軽微な違反で、取材が目的のうえ逃亡の恐れもないだけに、「行き過ぎ」(メディアで働く女性ネットワーク)と憤る声は少なくなかった。そもそも逮捕しなければならないような事案だったのか、という問題提起である。

ところが北海道新聞社は、この前代未聞の事件に直面して抗議声明を出すこともせず、即時釈放を要求したかどうかさえも明らかにしなかった。結局、業務命令を忠実に遂行しようとして逮捕された女性記者を、警察に委ねたままにしてしまった。