「かもしれない思考」で話を聞いてみる

「無知の知」とはソクラテスの言葉として有名ですが、ともかく他人のことはわからないことがたくさんあります。でも、「知らないということを知っている人」であれば、「~だろう」と決めつけるのではなく、「~かもしれない」と考えることができます。そして、相手に興味を持つことができ、相手の話や気持ちを聞いてみようという気になります。自分と意見が異なる人の話を聞いてみることは、コミュニケーションの大切な一歩です。

リモートワークにこだわる部下に対して、「家でサボりながらやっているのだろう」「在宅でのんびりやりたいのだろう」と決めつける。出社勤務にこだわる上司に対して、「ITリテラシーが低いからだろう」「家族には頭が上がらず、いばれないからだろう」と決めつける。このような決めつけからは何も生まれません。

「ご家族に高リスク者がいたり高齢者とよく接したりするのかもしれない」「在宅勤務を嫌がる理由があるのかもしれない。会社のアプリが使いづらいのかもしれない」という、「かもしれない思考」を持てるようになると、そこからお互いに話ができるようになります。

晴れた日に犬を連れて散歩をする高齢の夫婦
写真=iStock.com/mykeyruna
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リモート勤務を望む人に多い理由3つ

コロナ禍での産業医面談も1年以上になり、私はたくさんの人と面談をしてきました。リモート勤務を希望する人、出社勤務を希望する人、両者の対立は変わりませんが、今後は「かもしれない思考」をして相手を知ろうとすることで、対立から理解へと変化することを期待します。

私の産業医面談の経験から分かったことは、リモート勤務を望む人たちの理由として多い3つは、

・通勤がない(体力と時間の節約、家事がはかどる)
・仕事に集中できる(上司や先輩から、「ちょっと……」と頼まれにくい)
・煩わしい人間関係からの解放(職場のストレスの半分は人間関係)

です(順不同)。

一度経験したメリットは当たり前になり、手放したくないと思われます。