今後のカギを握るトヨタとの連携

そんなカリスマに軽自動車の存続、電動化の加速を託されたスズキの現経営陣は、この経営課題にどう答えを出そうとしているか——。鈴木俊宏社長は2月の記者会見で「軽自動車は守り抜く。会長に後ろ指をさされないよう頑張りたい」と誓った。

鈴木修氏が強力なトップダウンで引っ張ってきた経営は、鈴木俊宏社長をトップにした集団指導体制に移行する。

4月に社長を補佐する専務役員を1人から6人に増やした。この中にはトヨタとデンソーから転じた2人の外部出身者が含まれ、資本提携したトヨタとの関係を深め、集団指導体制で「100年に一度の大変革期」という難局を乗り切ることになる。

具体策は2月24日に発表した2026年3月期までの中期経営計画にうかがえる。特筆すべきは研究開発費で5年間に累計1兆円を投じる。過去5年の累計からは4割の増加で、鈴木俊宏社長は「スズキが生き残るために電動化技術を集中的に開発する」とその狙いを説明する。

設備投資も積極的に推し進める計画で、5年間で1兆2000億円と過去5年に比べ1割増やす。軽自動車のEVや高機能なハイブリッド車(HV)の開発に充てる方針だ。

事業規模としては連結売上高を4兆8000億円と2020年3月期から37%増加、世界新車販売台数も29%増やす370万台を目標に据えた。研究開発はトヨタとの提携が今後の大きなカギを握る。HVの相互供給のほか小型EVの共同開発に取り組むとしている。また、中期計画には2050年に製造時の二酸化炭素(CO2)排出量ゼロとする目標を掲げた。

しかし、足元のスズキの現状は厳しい。現在販売する軽自動車の約7割はHVとはいえ簡易型であり、EVとなると商品はまだなく、電動車投入へのアクセルを一段と踏み込む必要がある。

さらに、スズキの屋台骨を支えるインド市場での低迷を打開する必要にも迫られる。新型コロナウイルスの感染拡大で5月に3つある四輪車工場がすべて生産停止に追い込まれたほか、多目的スポーツ車(SUV)や低価格EVなどを積極投入する同業の追い上げから2021年3月期は「防衛線」とされる5割のシェアをわずかに割り込んだ。中期計画ではEVの投入やSUVの拡充を図る方針を示したのもこのためだ。

鈴木修氏が唯一恵まれなかったもの

数々の苦難を乗り越え、スズキを世界的な小型車メーカーに育て上げたカリスマ、鈴木修氏にとって唯一恵まれなかったのは後継者だろう。鈴木修氏は2000年に代表権を持つ会長に就き、社長の座を戸田昌男氏に譲った、さらにその後任の津田紘氏も含め2代続けて社長が病に倒れ、鈴木修氏はリーマンショック後の2008年12月に兼務で社長に復帰した。

この間、後継者の本命とされていた経済産業省出身の女婿、小野浩孝専務役員も2007年に病気で他界するなど、スズキを相次いで悲劇が襲った。その意味もあり、鈴木修氏に「生涯現役」の意を決しさせたのかもしれない。

カリスマが去った後に大切なこと

修氏が後継者に苦悩したように、カリスマ経営者にとって後継者の人選が最大の課題であることは言うまでもない。

カリスマの影響力の大きさとその抜けた後のギャップの大きさは日産自動車が代表的な例だ。会長だったカルロス・ゴーン被告は典型的なトップダウン型経営と圧倒的な求心力で日産を見事によみがえらせ、ルノー、三菱自動車の日仏3社連合でトヨタ、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)と世界市場で覇権を争うまでの存在に育て上げた。

しかし、ゴーン被告の逮捕から2年半余りを経た日産、さらに3社連合の経営の現状はトヨタ、VWに大きく水をあけられ、日産は2022年3月期に3期連続の連結最終赤字に陥る見通しで、その低迷ぶりが際立つ。日産の場合はトップの逮捕という特異な例とはいえ、カリスマ経営とその後の落差を鮮明に印象付けた。

長くカリスマが経営を担ってきた企業は「成功体験」に陥りがちだ。しかし、カリスマが去ったあとは、新たな経営体制が求心力を持ち、成長を維持していくことが求められる。

鈴木俊宏社長の率いる集団指導体制のスズキはどうなるか。「効率経営」を軸とした「オサムイズム」を引き継ぎ、存在感のある小型車メーカーとして存続できるのか。市場の目はその一点を見つめている。

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