「退任」のきっかけとなった電動化

会長退任を発表した今年2月のオンライン記者会見で、鈴木修氏は、「(2020年3月に)創立100周年の峠を越えたこともあり決意した」と述べた。

常々「生涯現役」と語っていただけに、この日、静岡県浜松市のスズキ本社で開かれた臨時取締役会で鈴木修氏が「会長を退任する」と表明すると、出席した役員たちは一様に驚いたという。

実際に、修氏の長男、鈴木俊宏社長は会見で「このタイミングでの退任表明は思ってもいなかった」と述べた。

しかし、退任を前にして6月8日に複数の報道機関とのインタビューに応じた鈴木修氏は、自動車の電動化の流れが退任を決断した大きな背景にあったことを示唆した。この点を6月9日付の日本経済新聞は鈴木修氏の発言を「電動化の時代、モーターや電池など新たな技術が皆目分からなくなった。90歳を超えて新たな勉強は今更できない」と伝えている。

不利な環境に置かれる軽自動車

脱炭素の流れに沿って名だたる欧米メーカーや中国勢が前のめりになって取り組む電動化に対する鈴木修氏の危機感は極めて強い。6月9日のインタビューで、2030年以降に自動車は電動車が中心になるとし「既存の産業ピラミッドは崩れ去る」と指摘したほどで、株主総会で「一にも二にも電動化」と語ったのを裏付ける。

とりわけ電動化に危機感を抱くのは、鈴木修氏がスズキの成長の礎を築き上げ、生命線ともいえる軽自動車が電動化で極めて不利な環境に置かれるからに他ならない。

スズキ販売店
筆者撮影

日本独自の規格である軽自動車は何といっても、排気量660cc超の登録車に比べて低価格なのが生命だ。しかし、電動車の要となる車載用電池は依然として高価格であり電動車にとってはコスト増につながる大きな要因だ。軽自動車が電動化に移行するにはその克服が大きな課題となる。

鈴木修氏がスズキの現経営陣に、軽自動車を今後の日本の自動車市場で存在感を示し存続できるように電気自動車(EV)などの開発を徹底的に進めてほしいと、退任に当たって釘を刺したのもそこに大きな意味がある。