粉飾決算、パワハラ、いじめなどの「組織の不祥事」を繰り返す組織にはどんな共通点があるのか。同志社大学の太田肇教授は「個人の役割が明確ではない日本型の組織構造、承認欲求、同調圧力が結びついて悪循環を生んでいる」と指摘する――。

※本稿は、太田肇『同調圧力の正体』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

事務所作業所
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大企業やスポーツ界、学校までも…

平成時代の後半には、さまざまな種類の不祥事が世間を賑わした。一つは、大手企業で立て続けに発覚した組織不祥事である。

大手電機メーカーの東芝では、2008年から14年にかけて決算の利益を水増しするなど不正な会計を行っていたことが判明した。2000年以降、組織的なリコール隠しが次々に発覚した三菱自動車では、2016年には自動車の燃費データを改ざんしていたことが明るみに出た。

また建物の免震ゴムに関するデータの改ざんが2015年に発覚した東洋ゴムでも、2006年ごろからたびたび偽装を繰り返していた。そのほか食品メーカーの商品偽装や、生命保険の不適切な販売などが近年、次々に発生した。

いっぽうスポーツ界では、2018年に起きた日大アメリカンフットボール部の部員による悪質タックルをはじめ、女子レスリングや女子体操、日本ボクシング協会におけるパワハラなど不祥事の告発があいついだ。

そして教育現場では、2019年に神戸市の公立小学校で教員同士のイジメが発覚し、刑事事件寸前にまで発展した。

意識改革は進んでいるはずなのになぜ?

このように企業や役所で続発した組織的な不正、職場や各種団体の中で発生したイジメ、パワハラ、セクハラなどは平成時代の組織イメージに暗い影を落とした。

特徴的なのは、いずれも同調圧力をもたらす3つの要因、すなわち閉鎖的、同質的、そして個人が分化されていない環境のもとで起きている点だ。その意味では起きるべくして起きた出来事だといえる。それを裏づけるように、前述のほかにも同じ組織が同種の不祥事を繰り返している事例が少なくない。東日本大震災の際に原発事故を起こした東京電力で、その後もミスやトラブルがたびたび発生しているのはまさに象徴的である。

問題の深刻さは、意識改革を求める政策や運動が展開されている中で不祥事が発生し続けているところにもあらわれている。

日本でも最近は人権の啓発活動が進み、国民の間で人権に対する意識は高まっているはずである。また政治や行政、企業経営においてはコンプライアンス(法令遵守)やポリティカル・コレクトネス(政治的正当性)、アカウンタビリティー(説明責任)が求められるようになった。

ところが組織の中に目を向けると、それによって問題が解消されないばかりか、数字だけをみるとむしろ世論に逆行するかのような様相さえみられる。