日本医師会は「地域での集客ができなくなる」と猛反対
さらに立ちはだかるのが、日本医師会の壁だ。オンラインの遠隔診療が広がると、地域で患者を集めて安定した経営をめざす従来の医療秩序が壊れるとの見方が根強い。オンライン診療が根付けば競争力のある医療機関に患者が集まる流れが加速する可能性を警戒する。
「町医者」を束ねる医師会は自民党にとって大きな票田だ。「オンライン診療が普及すれば医療資源を効率活用でき、ワクチン接種をする打ち手の不足などコロナ禍で騒がれる医療の逼迫緩和につながる」との指摘に政府・与党も理解を示すが、自民党にとっても9月にも総選挙が控える中、票田を失うとの恐れから大きく一歩を踏み出せずにいる。
4月末の東京都内のオンライン診療の登録機関は2056と半年で25しか増えていない。大阪府内も7しか増えず870にとどまっている。行政が提供する医療でも対応は一部にとどまっている。都でも4月から、体調が悪化した自宅療養者のオンライン診療を始め、医療機関への支援金も上乗せしたが、焼け石に水だろう。
オンライン診療「平安保険」利用者は3億5000万人超
国内では普及が遅れているが、中国ではオンライン診療が急拡大している。ネット通販大手の京東集団(JDドットコム)の傘下企業では20年の登録医師数が19年と比べて12倍の約11万人に膨らんだ。
日本で問題になっている「低い診療報酬」については「競争原理」を導入。中国のオンライン診療の料金は、人気のある医師ほど高額な料金を設定できるようになっているため、それぞれの医師が、24時間対応や事前に診断料などがわかる仕組みを提供するなど、患者のニーズにこたえるさまざまなメニューやサービスを開発し、顧客獲得にしのぎを削っている。その結果、対面よりオンラインのほうが報酬は高くなり、医師の争奪戦も発生している。
さらに中国では百度(バイドゥ)、アリババ集団、騰訊控股(テンセント)のIT(情報技術)3強が参入済みだ。スマホなどを通じ、検診や薬の処方なども日常的に実施している。ウーバー・イーツや出前館のようなデリバリーフードサービスが「薬の配達」も同時に提供している。
オンライン診療最大手の平安保険では問診も軽い疾患はAIで自動化されている。診断の難易度が高い場合は医師につなぐ仕組みになっており、その使い勝手の良さから同社のオンライン診療サービス「グッドドクター」の利用者は3億5000万人を超える。