プライベートを優先すべく派遣社員に
ホテルの仕事は楽しかった。次に移ったザ・リッツ・カールトン東京では海外からのゲストが多く、やりがいも感じていた。だが、職場では立ち仕事が多く、腰痛がひどくなっていく。自分の体調に加えて家庭の事情もあり、不規則なシフト勤務に「ずっとは続けられないな……」と思い、5年勤めたところで転職を決意。家事を支えるために、宮野さんは定時で勤務できる「派遣」という働き方を選んだ。
「新たにチャレンジするなら知らない業界がいいなと思いました。幾つか紹介された中で『日本HP』が気になって調べると、世界170カ国で事業展開しているグローバルカンパニー。多様性を重視する文化も魅力的でした」
2010年に派遣社員として入社。コンシューマー向けの営業部門で家電量販店など店頭のマーケティングのアシスタントを担当する。IT業界は未知の世界でも、接客が肌に合っていた宮野さんは店頭マーケティング職で力を発揮していく。
リモートワークの導入で正社員に
入社5年目に正社員として採用される。職場に2007年からリモートワークが導入されたことで、家事に支障ない働き方ができたからだ。当時の上司は女性の活躍促進を積極的にサポートしていた人で、「労働時間ではなく結果で評価する会社だから、短時間で結果を出していくことで契約社員時代よりも柔軟な働き方ができるようになると思うよ」とキャリアを後押ししてくれた。
2年後にはウェブで販売するEコマース事業の部署へ異動し、5人ほどのチームを率いるリーダーに昇進。上司も変わり、すべてが初めての挑戦だった。
「新しい環境を楽しめるタイプだったので、慢心もあったのでしょう。それまでは量で勝負というか、何でも断らず引き受ける仕事のやり方をしていましたが、当然ながらそのままで通用するわけがなく。リーダーの私がいちばん業務を知らない状況でマネジメントもしなければならない。求められる質が上がる中で考え方も行動も変えなければ到底できなかったのに、同じやり方を続けていたのでついにパンクしてしまい……」
周りに助けを求められず、一人で抱え込んだ。業務量が膨大にふくらみ、質は落ちていく。メンバーとのコミュニケーションも努めたが、アドバイスできない焦りがつのるばかり。3カ月経った頃、上司から声がかかった。
「そこで『この3カ月間に宮野さんがやったことは何?』と言われたんです。自分では頑張っていたつもりでも客観的に見ると何もできていなかったのか……と、衝撃を受けました」