娘を笑顔にした「親子ワンピース」でファッションの道を進む決意
初めての北京暮らしは苦労の連続だった。
3カ月間懸命に覚えた中国語はまるで通じず、聞き取ることも全くできずに落ち込んだ。もともと一人でも平気なたちではあるが、慣れない生活の中で、友人を作ることにも苦労した。
同じような環境の駐在員の妻たちとの交流に加え、現地の中国人の人々にも話しかけ、少しずつ輪を広げていった。そのやりとりから、中国語も少しずつ覚えることができるようになった。
とはいえ、マンション内ではあまり目立ちたくなかった。そのため、それほど好きではないが、無難でカジュアルな服を着て過ごしていた。
そんなふうに過ごしていた2016年の秋、米・ニューヨークのブランドで、親子がお揃いで着られる「親子ワンピース」が売られているということを日本企業のメールマガジンで知った。さっそく、娘と二人で着るために海外から取り寄せると、娘の顔が輝いた。
「これを着たら、甘えていい合図だよね」
中川さんはハッとした。慣れない暮らしの中で、弟に母を取られたと思い、寂しさでいっぱいだった娘が、自分とお揃いのワンピースを着ただけで喜びにあふれたのだ。
「洋服は『着る』だけのものじゃないんだ」
自分に似合わないカジュアルな服を着ていたときに気持ちが晴れなかったり、娘のようにその服を着るだけでテンションが上がったりする。ファッションが人に与える影響の大きさに気づいたのはこの瞬間だった。
そこで中川さんは、「親子ワンピース」の意義を見いだし、自力で親子ワンピースを作るために、新しい世界に足を踏み入れることを決めた。