パンデミックで「経済格差=命の格差」になった

水野和夫氏
水野和夫氏(撮影=朝日新聞社)

【水野和夫(以下、水野)】資本主義が「蓄積至上主義」だというのは、そのとおりだと思います。実際、資本主義は「蓄積」はうまくやった。旧ソ連のように国家が所有するのではなく、富の蓄積を市場に任せるほうが、はるかに効率がよいことを証明したわけです。

人々が資本主義にこれまで異を唱えなかったのは、資本が蓄積されれば、数年後にはもっと豊かな生活ができる、あるいは有事のような例外状況では蓄積されたお金で救済してもらえると思っていたからです。

ところが現実は、そのどちらも叶わない。資本主義は21世紀において、絶望的な二極化世界を生み出してしまいました。スイス金融大手UBSの2020年の報告によれば、世界の富豪2189人の財産総額は、最貧困層46億人の財産より多く、しかも4月から7月のコロナ禍のせいで、富裕層の資産は27.5%増え、10兆2千億ドルに達したといいます。

つまり、パンデミックという緊急事態においても、資本主義経済はなんら善行をなしえず、経済格差が命の格差になってしまっている。これは、資本を蓄積する正当性がなくなったということですから、過剰な資本に対しては、金融資産税や内部留保税、相続税などの税制を強化して分配するしかないんじゃないでしょうか。資本主義は成功したがゆえに、もうその役割を「終えた」と見るべきです。

「資本主義か? コミュニズムか?」は現実的ではない

【古川】斎藤さんや水野さんがおっしゃる資本主義は西洋的な資本主義で、明治から始まった日本の資本主義の場合には、もともとは西洋とは異なる発想があったんじゃないでしょうか。たとえば、近江商人の時代から、「売り手よし、買い手よし、世間よし」という「三方よし」でないと、商売は成功しないという考え方がありました。

また、大河ドラマで注目が集まっている渋沢栄一は、日本の「資本主義の父」と呼ばれていますが、彼自身は、資本主義という言葉は使わず、「合本主義」という言葉を使っていました。合本主義とは、公益を追求するために、人材や資本を集めて事業を進めるという考え方です。これを資本主義の一形態と考えれば、斎藤さんのコミュニズムにも通じるところがあるんじゃないかと思います。よき資本主義、ということです。

こうしたかつての日本の知恵も踏まえながら、斎藤さんも『人新世の「資本論」』で述べられていた、協同組合のような仕組みを拡充させていく。2020年末には国会でも労働者協同組合法が成立し、「協同組合を見直していこう」という機運が高まりつつあります。

ですから、「資本主義か? コミュニズムか?」というイズムの論争をするよりも、目指すべき方向に近づく具体的なアクションを一つひとつ実現していくほうが現実的ではないかと思うんですが。