いま全国で「こども食堂」が急増している。2016年には300カ所程度だったが、現在は約5000カ所にまで増えている。NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長で、このほど『つながり続ける こども食堂』(中央公論新社)を書いた湯浅誠さんは「『地域のしがらみ』とは違うつながりを得られるのが魅力になっている」という――。
バイキング形式に並べられた食事を受け取っていく参加者たち。2019年に撮影。
画像提供=湯浅誠さん
バイキング形式に並べられた食事を受け取っていく参加者たち。2019年に撮影。

最初から「こども食堂」ではなかった

――「こども食堂」と聞くと、「食べられない子が行く“福祉っぽい”場所」というイメージが強いです。なぜでしょうか。

【湯浅誠さん(以降、湯浅)】「こども食堂」というのれんを最初に掲げたのは、東京・大田区にある「気まぐれ八百屋だんだん」の近藤博子さんといわれています。近藤さんが居酒屋の居抜きで借りた場所で野菜を販売し始めると、店に上がりかまちがあったことで客同士が自然とコミュニケーションをとるようになり、地域の開放スペースになっていったそうです。さらに「だんだん」では娘の勉強も兼ねて近所の子どもたちにも勉強を教える「ワンコイン寺子屋」や、大人の学び直しのイベントなんかもやるようになっていきました。

そんなとき、たまたま知人から「給食以外はバナナ1本で過ごしている子どももいる」という話を聞いた近藤さんが、子どもでも安心してごはんが食べられる場所としてオープンさせたのが「こども食堂」でした。

メディアが「貧困対策」として取り上げた

【湯浅】彼女が「こども食堂」と名付けたのは、子どもが一人でも行ける場所だよ、ということを伝えるためでした。店の成り立ちや意図としては最初からこども「専用」食堂だったわけではないし、貧困家庭だけに利用を制限していたわけでもなかったんです。

ただ偶然のなせる技なのですが、2015年にメディアがこども食堂を取り上げ始めたときの文脈が、「子どもの貧困対策」でした。その報道でこども食堂の存在を知った人たちが全国で始めるようになって、15、6年あたりにこども食堂の第1次ブームが到来します。私自身も、16年から3年間かけて47都道府県すべてをまわる「広がれ、こども食堂の輪!」全国ツアーに携わり、こども食堂の重要性をアピールしてきました。

――はじまりは貧困対策でも子どもに限定したものでもなかったんですね。今現在こども食堂は全国に約5000カ所(※)あるということですが、一番の目的はなんでしょうか。

(※)2020年12月時点で全国に少なくとも4960カ所ある。2016年の319カ所から約16倍になった。NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえの調査

【湯浅】地域づくりと貧困対策の2本柱だと思っています。郊外のショッピングモールって、人はいっぱい集まってるのに、人と出会わないですよね。自分たちのグループで行って、自分たちのグループだけで過ごして帰ってきます。

逆にこども食堂は、「カブトムシ10匹あるけど、誰かいる?」みたいな声がいつもある場所で、人と出会うハプニングがあります。私も全国のこども食堂で、「ここではたくさんの人と知りあえる」という言葉を何度も聞いてきました。