「コカリナ」を吹きこなし、「点字楽譜」の普及に尽力
「美智子さまゆかり クスノキを楽器に 文京の大和郷幼稚園」。そんな見出しの記事を見つけたのは、6月5日だった(朝日新聞朝刊・東京版)。上皇后美智子さまが幼い頃に通った幼稚園の木が伐採され、「コカリナ」という楽器に生まれ変わる、6月4日にはコカリナ奏者の黒坂黒太郎さんらによるお別れコンサートが開かれた、という記事だった。
時系列でまとめてみる。
・1973年 皇太子妃になった美智子さまが来園、記念にクスノキの苗を植える(以後、美智子さま、同窓会などでたびたび来園)
・2016年 皇后になった美智子さま、親交のある黒坂さんのコンサートで客席からコカリナをサプライズ演奏
・2020年、クスノキの伐採が必要に。園長が黒坂さんにコカリナ制作を依頼、黒坂さん快諾
読後、「日本コカリナ協会」のホームページを見た。コカリナは黒田さんが1995年に命名した小さな木の笛で、国内に数万人の愛好家がいるとあった。とはいえ、メジャーとは言い難いこの楽器を、美智子さまは吹きこなすのだ。驚いた。そもそも1年だけ通った幼稚園の同窓会にたびたび出席している。その事実にも感じ入った。布石があった。
4月にも、朝日新聞で美智子さま関連の記事を読んだ(4月14日夕刊)。「点字楽譜利用連絡会」が4月18日にコンサートを開く、連絡会はそもそも美智子さまの寄付金をきっかけに誕生した団体だと伝えていた。
点字楽譜はオーダーメードが普通で、共有されにくい。そう知った美智子さまが2005年に自著の印税などを寄付したのが会の始まりで、今ではネット上にリストがある。「美智子さまのおかげで、点字楽譜はメジャーリーグに昇格できた」という会代表の言葉と、連絡会の集いで来場者に声をかける2017年の美智子さまの写真が紹介されていた。
美智子さまの行動が、皇室の人気を支えてきた
自分の話で恐縮だが、『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)を2019年に出版した。中に「卓越した被写体であるということ」という一項を立てた。記者、編集者として、膨大な美智子さまの写真を見てきた実感だった。そこで政治学者・御厨貴さんの言葉を引用した。
「昭和二十二年の新憲法以来、ずっと続いてきた象徴天皇という制度は、国民の支持によって成り立っています。『開かれた皇室』をキャッチフレーズに、私的な部分、つまり理想の家族としてのプライバシーを部分的に国民に開放することで、人気と支持を勝ち得てきた。その切り札が、まさに美智子皇后だったのでしょう」(文藝春秋二〇〇八年四月号「天皇家に何が起きている」)
御厨さんはプライバシーを開放したと美智子さまの役割を語ったが、それに限った話ではないと思う。公務もプライベートも、美智子さまの行動がメディアを通して国民に伝わり、皇室への支持となった。