「また好奇の目で見られてしまうようで怖い」

【坂爪】そう聞くと柾木さんが『「女性向け風俗」の現場 彼女たちは何を求めているのか?』(光文社新書)を刊行した意義は大きいと改めて思います。しかも柾木さんは店側の論理を代弁したりも、女性におもねったりもしていない。読んでいて、現場で起きた出来事がストレートに、フラットに伝わってきました。柾木さんは普段は表に出てこない性について悩む女性の声を記録した。それがこれからの男女の関係性を見直すきっかけになるかもしれない。

柾木寛『「女性向け風俗」の現場』(光文社新書)
柾木寛『「女性向け風俗」の現場』(光文社新書)

【柾木】そこが、とても難しかったんです。お客さまは私にずっと隠してきた悩みを話してくださいました。彼女たちがずっと秘めてきた性をめぐる思いを、男性である私が明るみに出してもいいのだろうか、と。誤解を恐れずに言えば、昔から男性は、女性を性的な好奇心や性欲のはけ口にしてきた。女性読者のなかには、また好奇の目で見られてしまうようで怖い、と不安を口にした人もいました。私にもその気持ちがとても分かりました。

【坂爪】でも、柾木さんは、いかに男性たちが自分勝手な行為を続けてきたか、男性側に問いかけてもいますよね。

【柾木】私は以前、某有名AV男優が講師をつとめるセミナーに半年ほど通っていました。私にとっては男優さんによるテクニック指導だけでなく、ゲストのAV女優さんによる女性の視点を通した講義もあり、とても充実したセミナーでした。20人ほどが受講していたのですが、女性向け風俗のセラピストは私ひとりで、数人が若手AV男優。残りは一般の男性たちでした。話を聞くと、性体験も、女性とお付き合いした経験もない人も少なくなかった。彼らは性的なテクニックさえ磨けば、女性に対して自信が持てるのではないかと考えているようでした。

テクニックよりコミュニケーション

【坂爪】女性とのコミュニケーション機会が乏しい男性ほど、「テクニックさえ磨けば」と思い込んでしまいがちですが、そうした男性たちの意識の根っこにも、AVの弊害や、ある種の男女のコミュニケーション不足があるのかもしれませんね。

【柾木】最近、女性向け風俗が知られるようになり、働かせてほしいとセラピストを志望する男性も増えてきました。なかには「自分はこんなにスゴいテクニックがある」とアピールする男性もいる。でも、そうした自己主張の強い男性は、セラピストに向いていないのではないかと感じます。

セラピストは、テクニックをひけらかすよりも、ささいなコミュニケーションから、女性たちがずっと隠してきた思いに気づいたり、口に出せなかったニーズを拾ったりしていく必要があります。いままで秘めてきた思いを受け止め、寄り添うのが、女性向け風俗で働く男性の役割だと思うのです。

(聞き手・構成=プレジデントオンライン編集部)
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