フィリピン、タイ、ベトナムがLNG輸入を拡大中

フィリピンでは同国電力大手のファーストジェンが来年の初輸入に向けて、6月に基幹設備の建設を開始した。同国唯一のマランパヤのガス田は27年にも枯渇すると推定され、発電量の2割を占める天然ガス火力発電が立ち行かなくなる可能性が高まっている。同国の電力需要は40年まで年5%以上増加する見通しだ。

タイやベトナムでもLNGの調達拡大が進む。タイは民間企業へのLNG輸入が20年に解禁された。これまで国営エネルギー会社のタイ石油公社(PTT)が独占してきたが、民間電力大手のガルフ・エナジー・デベロップメントや財閥Bグリム系の企業にもLNGの取引免許が与えられた。タイもフィリピンと同様、国産の天然ガスが枯渇傾向にある。このため、11年から始めたLNG輸入を37年に約320億立方メートルと18年の6倍超に増やす計画だ。

シンガポール海峡を通過するLNGタンカー
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まだ輸入実績がないベトナムでも、国営石油最大手のペトロベトナムグループが南部のバリアブンタウ省で22年にもLNG基地を稼働させるなど、約10カ所で基地プロジェクトが進行中だ。

新電力を経営破綻に追い込んだ「電力不足での料金高騰」

自国でのLNG枯渇に加え、脱炭素の世界的な流れも東南アジア各国がLNGの調達を急がせている。石炭火力に比べて二酸化炭素(CO2)の排出量の低減につながる天然ガスの活用は重みを増している。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、20年の世界のLNG需要のうち東南アジアは5%程度だったが、30年には13%程度まで伸び、世界の需要を牽引するという。現在、世界需要の約2割を占める日本や、急速に調達を増やす中国にとっても無視できない存在になる。

LNG争奪戦の過熱でスポット価格がまた高騰するようだと、自前の電源を持たない新電力は、経営への打撃が再び深刻化する。通常、暖房不需要期となる5月は余ったLNGを消費する期間だが、「今年は電力余剰が少なく、余ったLNGを使ってつくる安値の電気の入札がかなり減っている」と経産省は警戒する。

新電力は今年に入り、3月に大手の一角を占めるF-Power(エフパワー)が経営破綻した。東京地裁に会社更生法適用を申請、負債総額は464億円(帝国データバンク)で今年最大の倒産案件となった。低料金を武器に18年4月には販売電力量で新電力首位に立ち、売り上げも1000億円を超えた。

しかし、急成長の半面、自前電源だけでは需要に追いつかず、電力卸市場からの調達を拡大していったのがあだとなった。調達できなかった電力分を大手電力に穴埋めしてもらったかわりに支払う200億円にも及ぶインバランス料金が発生。折からの電力不足による料金高騰で通常の10倍を超える支払いを迫られ、破綻に追い込まれた。