自前の電源を持たない新電力の破綻は止まらない
さらに、新電力ベンチャーのパネイルも5月に東京地裁に民事再生法の適用を申請した。主力の電力小売事業で安値受注を続け、収益が悪化していた。AIを活用した電力管理システムの開発計画を打ち出し、大企業との提携にも乗り出していたが、実現できずに経営が行き詰まった。
16年の電力小売り全面自由化以降、大手電力以外の異業種から参入した新電力の事業者は約700社に増えた。新電力の販売電力量は全体の約2割まで占めるまでになった。自由化による電気料金引き下げを目指してきた政府だが、今夏や冬の電力が再び逼迫し、卸価格が高騰すれば自前の電源を持たない新電力の破綻は止まらないだろう。
経産省もインバランス料金の上限や分割支払いなどを導入して新電力の経営を支援しているが、「過去の安売り合戦で新電力各社の体力はかなり奪われている」(新電力幹部)との声は多く、予断を許さない。
大手電力の経営も厳しい。この年明けの電力不足への対応のために高騰したLNGの調達を余儀なくされたため、電力大手各社の前期の業績は大幅な減益となった。ライバルの大阪ガスからLNGの「おすそ分け」を受けた関西電力はようやく稼ぎ頭の原発の再稼働にこぎつけたが、多くの大手ではまだ多くが止まったままだ。
特にこれから迎える冬にかけて予備率が3%を切るともいわれている東電は、柏崎刈羽原発での相次ぐ不祥事で、原発再稼働に向けて動きづらい状況が続いている。
アマゾンのデータセンター7つで、消費電力は原発1基分
LNGの値上がりによる発電コストの上昇や原発の停止など利益がそがれる中、大手電力が再エネに充てる余裕はなくなってきている。その間隙を縫うように、再生エネルギーの分野では米アマゾン・ドット・コムは大手商社などと組んで、日本国内に独自の発電所を建設することを検討している。
アマゾンは日本にある自社のデータセンター向けに独自に発電所を建設する計画を進めている。太陽光や洋上風力で得た再生エネルギーをアマゾンのデータセンターに供給する。すでに複数の商社に発電所建設を持ち掛け、協議している。
アマゾンの計画ではこの独自発電所の最大発電能力は数十万キロワット。大型データセンターは1カ所で原子力発電所の10分の1にあたる10万キロワットの電力を消費する。アマゾンは国内に7カ所のデータセンターを持つが、すべて再生エネで賄うとすると、原発1基分に相当する規模になる。
東京電力など大手電力にとってみれば、有数の大口需要家であるアマゾン向けの電力供給契約は喉から手が出るほど欲しいところだ。しかし、今、大手電力にアマゾン専用の大規模の再生エネ発電所を建設する余裕はない。
アマゾンは水面下で東電などと交渉していたが、ガス火力や原発の再稼働を見込む中で、東電など大手電力の再エネへの取り組みは遅れている。「東電の煮え切らない態度にしびれを切らしたアマゾンが大手商社に持ち込んで入札となった」(大手投資銀行幹部)という。
仮に大手商社がアマゾンからの受注を獲得すれば、東電など大手電力の取引先はまた一つ減ることになる。