コロナ後の世界では「健康=規範」になる

このような世界を目の当たりにした以上、私たちは「健康」をこれまでのように個人的な概念として意味づけることはできなくなる。コロナ後の世界で「健康」は、個人の好みや努力目標として語られることはなくなり、社会のメンバー全員が当然かつ必然的に目指さなければならない「規範」として語られるようになっていく。

「その行為は(たとえ個人の嗜好の自由であったとしても)不健康になることは目に見えている。不健康であることは社会の不安定化のリスク要因であるのだから、厳に謹むべきだ」――とする論調は、すでに各所で萌芽を見せている。とくに呼吸器疾患とも関連が深い喫煙は、コロナ前からすでに風当たりが強かったが、このパンデミックによってさらに「弾圧」を加える正当性が付与されてしまった。私は非喫煙者だが、コロナ後に待ち受けているであろう喫煙あるいはそれをたしなむ人びとへの厳しい視線を想像するだに恐ろしく、同情を禁じ得ない。

たばこの吸い殻
写真=iStock.com/solidcolours
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タバコは「社会の脆弱性を高めるもの」になった

このパンデミックが始まった頃の話であるが、呼吸器系や肺の専門家からなる組織は、こんな声明を出していた。

呼吸器系および肺の専門家や医療関係者などからなる国際的な組織である国際結核肺疾患連合は6日、新型コロナウイルスのリスク低減に向け、喫煙者に禁煙を求めるとともに、たばこ会社に製品の製造と販売の停止を呼び掛けた。
同連合の公衆衛生専門家Gan Quan医師は声明で「新型コロナウイルスに対抗する最善策は、たばこ業界が直ちにたばこの生産とマーケティング、販売を停止することだ」と述べた。
連合は、新型コロナウイルスの影響が世界13億人の喫煙者に及ぼす影響を「深く憂慮している」とし、特に医療システムが既に過剰な負担を受けている貧困国における影響に言及した。
Reuters『専門家、新型コロナ重篤化防止で禁煙・たばこ生産停止を要請』(2020年4月7日)より引用

タバコを吸うことは「がんや呼吸器疾患のリスクとなるなど、個人の健康を損なう恐れがあります」から「医療基盤に打撃を与えるなど、社会の脆弱性を高める危険性があります」へと、その嗜好を行使する自由の「ただしくなさ」の意味づけが変わっていったのだ。