「臭いや味がしない」は実は少ない

新型コロナウイルスに感染すると、嗅覚障害や味覚障害が起こりやすくなります。イタリアの新型コロナ感染患者の嗅覚・味覚障害についての論文によると、感染患者(調査対象は204人)の実に64.4%に嗅覚・味覚の変化が現れたと報告されています。しかし、嗅覚・味覚の異常だけが起こるわけではありません。嗅覚・味覚障害が唯一の症状であった患者さんの割合は3.0%と意外に少なかったこともわかっているのです。

また、最初に嗅覚・味覚の異常が起こったのは11.9%、ほかの症状と同時が22.8%、ほかの症状が先行したのは26.7%でした(※)。つまり、嗅覚・味覚の異常が単独で現れるのはわずか3.0%にすぎず、ほとんどの人は発熱や咳、疲労感など別の症状を併発しているのです。感染の有無を嗅覚・味覚の変化だけで判断するのは極めて危険といえるでしょう。

嗅覚・味覚の異常しかない状態が続く場合には、ほかの病気も疑ったほうがいいかもしれません。亜鉛欠乏、薬の副作用、肝障害、腎障害、糖尿病、甲状腺機能異常、舌炎などのさまざまな原因によって、嗅覚・味覚の異常は起こります。

※ 出典:SG. Spinato, et. al. Alternations in smell and taste in mildly symptomatic outpatients with SARS-CoV infection. JAMA, April 22 (online), 2020.

感染すると血液が固まりやすい?

新型コロナウイルスに感染すると、血液の凝固線溶(血液の固まりやすさ・固まりにくさ)系に異常が起こりやすいことがわかっています。

一般に、感染症全般による凝固線溶系の異常は「線溶抑制型」といって、感染で起こる炎症によって一時的に血液が固まりやすくなるものの、この凝固を抑制する体の機能が働き、やがて治まります。しかし、新型コロナ感染症の場合は、なかなか治まらず、逆に悪化しやすくなります。

日本血栓止血学会では、新型コロナ感染症の重症患者6例を調べた結果、血液の凝固を抑制しにくい「線溶亢進こうしん型」の様相を呈しており、うち2例が脳卒中を合併したと報告しています。つまり、凝固線溶系異常によって、脳梗塞や脳出血などの脳卒中を招く可能性があるのです。

日本でも、酸素飽和度、CT画像所見に加えて、D-ダイマーという血液検査値を重症化の指標とすることになりました。D-ダイマーを測定することで、凝固線溶系異常の有無がわかります。ただし、コロナ後遺症として凝固線溶系異常が現れることは少ないので、新型コロナ感染症の回復後は、血栓を心配しすぎる必要はありません。