日本の自殺者数は9年連続3万人を超え、先進国の中で、それも民主主義国家の中では最も多い。その原因で顕著に見られるのが“中高年のうつ病”である。
無気力、不眠、気分が落ち込む、自殺願望などの症状を訴え、多くの人は内科を受診して、精神科を紹介されるケースが多い。
“心の風邪”と呼ばれることでもわかるように、自分と関係のない遠い病気ではない。誰に、いつ起きても不思議ではないのが、うつ病である。
そのうつ病は、脳内の神経伝達物質の中のセロトニンやノルアドレナリンといった物質が不足しているか、セロトニンに反応する神経、セロトニン神経に不調の生じていることがわかっている。
ただ、セロトニンやノルアドレナリンがなぜ不足する事態が起きるのか、なぜそれらの物質に関係する神経の働きが悪くなったりするのか、そのメカニズムはまだ完全には解明されていない。
治療は「休養」、そして、「薬物療法」。薬を服用して早い人は約3カ月で“寛解(自覚、他覚症状が一時的、あるいは永続的に軽快した状態)”に達する。
だが、ここで薬の服用をやめると、約半分の人は再びうつ病の症状が出てきてしまう。たとえ治療がうまく進んでも、社会復帰、いわゆる職場復帰となると、不安は大きい。
そこで、いま注目されているのが、うつ病患者への“社会復帰支援”である。
社会復帰支援プログラムでは、「社会復帰(就労)に適応できる生活リズムの適正化」「基礎体力の増進」「コミュニケーション能力の向上など、認知の適正化」を基本に、患者1人ひとりに合った個別プログラムがつくられる。
そして、「認知行動療法」「運動療法」「食事療法」がその3本柱である。
これがデイケアで行われる。統合失調症では1940年代に欧米でスタートしたが、うつ病患者もそこに加わるという形だった。が、いま注目されているのは、うつ病患者だけを対象に行われる精神科デイケアである。
認知行動療法では、自分自身の物事の感じ方のクセを自覚し、それを見直して是正しながら、感情や反応、認識を自分でコントロールする方法と技術を身につけていく。
具体的には、デイケア時に他の患者たちとひとつのテーマでミーティングを行って、対人関係の適正化ができるようにスタッフたちが支援する。
運動療法では、グループでウオーキング、瞑想、ストレッチ体操などを行う。運動を行うことで、脳への血流を増やし、脳内のセロトニンの量を増加させるのである。
さらに、食事内容の改善を行うことにより、抗うつ薬の効き目を高め、再燃・再発を防ぐ大きな効果が期待できる。
食生活のワンポイント
食事療法では、現状の食生活のチェック、栄養素の効率的な摂り方、正しい食生活の啓発講座や料理教室への参加などの指導が行われる。
セロトニンはタンパク質に含まれるアミノ酸の一種。朝食で最も効果的に吸収される特性をもっているので、朝食は欠かさず、3食規則正しい食生活を実行する。
朝はコーヒーとパン。そういう人は、雑穀ブレッド、目玉焼き、サラダ、プレーンヨーグルト、豆乳入り野菜スープにしてみよう。動物性タンパク質が確保され、雑穀ブレッドによってビタミン、ミネラルの摂取量も大幅に増える。
もちろん、そっくりこのままの朝食メニューを勧めるわけではなく、このようにバランスのとれた食事を心がけるということである。
また、注目される栄養素としては、トリプトファンがある。トリプトファンは脳内神経伝達物質であるセロトニンの原料だからである。
バナナ、牛乳、卵黄、大豆製品、まぐろ、かつおなどに多く含まれている。が、基本はバランスのよい食事、である。