家族の理解がカギ

現在、年間100名以上のお看取りをしていますが、実際は、完全なひとり暮らしでそのまま最期をご自宅で看取った方は、まだおふたりしかいらっしゃいません。

在宅医療を紹介した『なんとめでたいご臨終』(小学館)という本の著者でもある日本在宅ホスピス協会会長の小笠原文雄先生は、おひとりさまを何十人も看取られているそうですが、私が関わったおひとりさまは、最終的には、ご家族が一時的に同居されてご自宅で最期まで過ごされるか、離れて暮らしているご家族の希望で最期は病院か施設に入ることが多い現状があります。

一本のカラーの花とキャンドル
写真=iStock.com/izzzy71
※写真はイメージです

おひとりさまがご自宅で療養生活を送ることは、ご本人のご希望があり、小さな不自由を許容できれば、十分に可能です。ですが、おひとりさまが最期まで自宅で過ごすことを叶えるには、ご本人のご希望について、ご家族の理解を得ることが鍵となります。

「ぜったい畳の上で死ぬ」が叶った一人暮らしのおじいちゃん

完全なるおひとりさまで在宅死を遂げたのは、93歳のK茂おじいちゃん。

奥さまがずいぶん前に先立たれて、お子さんもいないので、ずっとひとり暮らしでやってきた方でした。ご兄弟も旅立たれ、血縁の方はいらっしゃいませんでした。

私が訪問診療に入ったときも、はじめから強い意思がおありで、開口一番こう言いました。

「オレは絶対に病院とか施設とかに行く気はないから、ここでなんとかしてくれな。畳の上で死にたいんだ」

K茂おじいちゃんは、それまでにも入退院を繰り返していて、医師や看護師が何度も様子を見に来ては「あれしろこれしろ」と言われるのに、もううんざり。だから自宅でひとりでのんびり死にたいんだという、強い希望がありました。

ですから、人の出入りをできる限り減らしたいと、介護保険サービスは最小限を希望されていました。経過中に発熱があったときも、おそらく肺炎であったこともありましたが、「自宅で治療ができる範囲で治らなければ仕方ない」と、病院受診は断固拒否されました(そのときは幸い抗生物質の点滴で改善されました)。

だんだん動けなくなってきて、おむつになっても、「最近のおむつは性能がいいだろ? だから大丈夫だよ」と、私の訪問診療のほかには、1日1回の訪問介護と週1回の訪問看護のみ。お伺いすると決まって笑顔で迎えてくださいますが、「ひとりは気楽でいいよ」と常々おっしゃっていました。寝たきりになり、床ずれを心配して介護ベッドをお勧めするも「布団がいちばん」と、もちろんお断りでした。

それから2週間ほどして、K茂おじいちゃんは、約束どおり畳の上で眠るように亡くなりました。おひとりさまの大往生をしっかりお見送りできました。