「1回限りの学力テストに全力投球」という日本の受験システム

ここで、教育を生涯学習の発想で考えるデンマークのことをご紹介しましょう。デンマークでは、日本でいう小・中9年間の最終学年である9年生まで子どもたちの成績を比較するようなテストは実施されません。また10年生に進学するかどうかは自分で決められます。9年生を終えた後、もう1年学校に残るかどうかを自分で決めて、その上で必要があれば高校や専門学校に進学します。中学卒業と同時に高校進学するという慣習がないのです。

このことを聞いたある日本人学生が、デンマーク人に「受験勉強を1年しなかったら、受験に不利になりませんか?」と質問しました。質問を受けたデンマーク人は鳩が豆鉄砲を食らったように驚いた後で笑って、「1年で落ちてしまうような学力を入試で測ってどうするのですか」と逆に学生に聞いたのでした。

1回限りの学力テストに全力投球できるかどうかも含めてその人の力であるとみなされるのが日本の受験システムです。受験生は、冬の寒い時期に風邪をひかないように生活し、事故に遭遇して遅刻することのないように複数のルートを確認し、その一度きりの機会に最高の力が発揮できるように最善の準備をしなければなりません。そういう配慮をしてくれる家族がいる受験生と、一人で受験しなければならない受験生では、結果が違ってくることもあるでしょうが、それも含めて「受験の条件を全国同一にすることで平等とみなす」わけです。

学力以外の評価軸があっても「トレーニング」を受けることになる

日本の最高学府である大学の教授たちによる旧センター試験の監督は、マニュアル通りに一字一句文言を変えず、受験生に対して情状を挟まず、自分の頭で思考せずロボットのように同じことを繰り返すよう求められます。工場の生産ラインと同じです。

一方、学力だけではガリ勉した者が有利になり、合格後に対人関係に問題が生じる可能性もあるということから、「面接で対人コミュニケーションの能力を審査しましょう」、あるいは、「1回の学力試験や面接では対人関係能力はわからないから、運動部の主将や、大人数の部活やイベントを取り仕切っていた生徒を推薦で取りましょう」ということになります。

推薦入試では、過去の対人関係や役職経験、活動成果が問われますが、それをさらに精緻化し多軸化したシステムが、eポートフォリオやその小中高校生版であるキャリアパスポートの活用です。その結果、近年の子どもたちは、幼少期から記憶力や理解力に加えて探究力や思考力、さらには非認知能力を身につけるように、そのためのトレーニングを受けることになりました。