お金持ちをみて「あの人はすごいね」と思う人がいる。いったい何がすごいのか。臨床心理士の武田信子さんは「私たちは価値をお金で換算する癖をつけてしまった。それは間違っている」という――。

※本稿は、武田信子『やりすぎ教育』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

ノートと教科書を開いて勉強している人
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです

将来への生活不安と大人の責任の呪縛

「あの人お金持ちだね、すごいね」と人は言います。何がすごいと思うのでしょうか。

お金持ちになるにはいろいろな方法があります。もちろんこつこつと誠実に働いて貯めてお金持ちになる人もいるでしょう。でもたまたま時流に乗ったとか、家賃収入で入ってくるとか、人をだますとか、方法はさまざまなのです。

発展途上国に行くと数百円で1カ月暮らす人たちがいるのですが、日本人が彼らより偉いわけではありません。でも、私たちは価値をお金で換算する癖をつけてしまいました。お金やモノを持っている人のほうが偉いように思う錯覚の中に生きていて、子どもたちがより多くお金を持てるように育てようとしています。将来、お金がなくなることが不安なのです。

日本は有数の長寿国で高齢化社会に入りました。これから歳を重ねたとき、年金が下りるかどうかもわからないと言われています。経済的格差が激しくなり、非正規雇用で生活不安を抱える層が増える中で、企業のヒエラルキーは依然として存在し、学歴、言い換えれば「大学を通した人間関係のネットワーク」を持っている者が有利になるという現実があります。

あるいは、学士を始めとした資格を持っていることが、個人のブランディングとなります。よい学校に入ってよい仲間とつながっておくこと、入学試験で選ばれたという実績と学士や検定などの「資格」を持っておくことが、生き残り選抜の際に役立つはすだと大人たちが考えるのも無理はないでしょう。