一方、ドイツは、連邦政府の経済対策1300億ユーロ(約16兆円)のうち、ドイツ鉄道向けに50億ユーロ(約6000億円)、地域公共交通向けに25億ユーロ(約3000億円)を振り向けています。

アメリカのバイデン大統領も、公共交通の整備に8年間で850億ドル(約9兆4000億円)、都市間鉄道のアムトラックに800億ドル(約8兆8000億円)を投じると発表しました。両国ともに自動車大国ですが、脱炭素の時代を迎え、鉄道などの公共交通にシフトしていこうという姿勢が明確です。

日本では、運輸部門のCO2排出量の8割が自動車からのものです。しかし、道路関係予算は、国土交通省の2021年度の当初予算で4兆4000億円(事業費ベース、住宅都市環境整備分を除く)、一方、地域公共交通確保維持改善事業等の予算は200億円、鉄道局の都市・地域鉄道関連を合わせても1000億円程度です。

道路も大切ですが、道路予算のうち1%を公共交通に振り向けるだけでも、かなりの公共交通が生き返るはずです。

「通学定期の割引コスト」は誰が負担しているのか

もう一つ、今すぐにでも手を打つべきだと筆者が考えているのが、通学定期の割引販売に対する公的支援です。

日本の地域鉄道は、利用者に占める通学者の割合が多いのが特徴です。地方に行くと、電車に乗っている人はだいたい高齢者か学生ですね。しかし、収益という観点でみると、学生は実際の利用者数ほど貢献していません。

なぜなら通学定期がとても割安だからです。もっとも、通学定期の料金は学生や保護者にとって死活問題ですから、おいそれと値上げするわけにはいきません。

通勤・通学の時間帯の渋谷駅
写真=iStock.com/oyoo
※写真はイメージです

通学定期の割引コストを負担しているのは、現行の制度では、各公共交通の事業者です。したがって、事業者は、収支を合わせるために通学定期の割引分を普通運賃に上乗せすることになります。つまり、その負担は、車を運転できない高齢者など、他の利用者にしわ寄せられるのです。

「通学コスト格差」が生み出す問題

そもそも通学定期の割引制度は、明治時代に、国の教育政策の一環として、当時の鉄道省傘下の国鉄が導入したのが始まりです。そこで、民間の鉄道やバスも、これに追随する形で、割引率を少し抑えた通学定期を導入しました。

現在でも通学定期の割引率は各事業者の自主判断となっています。あまり知られていませんが、JR各社に比べて他の鉄道会社やバスの通学定期の割引率は低くなっています。

私事になりますが、筆者は茨城県の水戸市の出身でバスで通学していました。当時からバスの通学定期の料金はとても高く、一方で、国鉄(現在のJR東日本)を利用している友人の定期代があまりに安いことに驚愕した記憶があります。

最近では、料金が高い地域公共交通の利用を避けて、親の車で通学する学生も増えているそうです。その結果、学校の周辺で渋滞が発生して、問題になっています。