暴力団にとって抗争は「必要経費」

【鈴木】全くその通り、報復こそすべてですよね。やられたらやり返すという暴力団の基本原理から外れた組織は、いずれ消滅に追い込まれる。

せめて何回か戦わないとメンツが立たない。昔はやられたら一刻も早く報復をするべきと言われていた。組員が殺されたら、ヒットマンは葬儀に出席せず、すぐに拳銃を持って襲撃に行きました。

また、昔はヤクザの息のかかった建設会社がごろごろあって、玄関先に拳銃を撃ち込まれても、翌日の朝には元通りに直っているなんてこともあった。だから新聞沙汰にならない事件もたくさんありました。

夜道で拳銃を所持する男性の手元
写真=iStock.com/FluxFactory
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【溝口】弱肉強食で、餌をお互いに争って食う、そういう世界です。この世の中で、食えずに我慢するなんていうことは生存のしかたとしてあり得ないわけで、常に食っていなければ、その組は消滅する。

だから、暴力団にとって抗争は、人的にも金銭的にも「必要経費」という考え方がある。あるいは長期的に見れば「将来投資」という言い方もできるかもしれません。

【鈴木】確かに損害も含め、抗争はビジネス的な観点から見ても成り立っています。例えば、ある地域のソープランドの利権を取りに行って喧嘩した場合、勝てば、その利権はすべて自分のところに入って来る。さらに、相手からも落とし前が取れる。そういう意味で、収支が合う抗争というのがあるわけです。

【溝口】そうですね。損して得取れ、と。

抗争に勝利すれば仕事を請けやすくなる

【鈴木】さらに長期的には、暴力イメージが高くなるので、あとあと、自分たちのところにいろんな利権が舞い込んでくることになります。暴力団に仕事を頼みたいときには、やっぱり、喧嘩の強いところにみんな頼みたいわけです。

【溝口】それは当然そうなる。

【鈴木】だって、そういう人たちは暴力で解決してほしいんですから。例えば同じ債権回収を頼むにしても、強いところに行くに決まっている。で、強い組織に行こうと思っても、食べログのように暴力団の暴力をネットで比較検討はできない。何を基準にするかといえば、繁華街にでかくて立派な事務所があって、組員もたくさんいるようなところです。

【溝口】そうなるには、他団体を侵食して、大きくなるしかないわけです。だから、抗争は必要経費である、と。

【鈴木】抗争にかかる金というと、一般的には銃の調達とかをイメージするのかもしれませんが、そんなのは100万とか200万とか300万とかだから、大した金額ではない。裁判になった場合の弁護士費用とか、逮捕された組員の面倒を見る金に比べたら、微々たるものです。

やっぱり大きいのは人件費です。例えば暴力団抗争で相手を殺し、幸い、無期懲役を免れ、30年懲役で結審したとします。長期累犯者が収容されるLB級刑務所に収容されるわけですが、都合よく近くの刑務所とはなりません。