暴力団は“負のサービス産業”

【鈴木】暴力団は弱肉強食の世界なので、栄枯盛衰です。パワーバランスの変化は頻繁にあり、一代で大組織になったり、あっという間に落ちぶれたりする。

【溝口】その組の親分が病身になって、暴力団活動から退くとか、あるいは、代替わりするとか、死んでしまったりして、その組織が衰えたり混乱したりするとかね。いろんな理由があります。そうして力関係が変化すると、他の組からの侵食というものが起きる。

【鈴木】抗争にはいろいろな形態がありますが、もっともわかりやすいのは利権の取り合いです。相手の勢力範囲を侵食して、シノギを奪い取るというのが勢力拡張のもっとも簡単な方法。

ヤクザが勢力を拡大していこう、組織を強くしていこうとなったら、相手のところから奪い取るしかない。ヤクザが興味を持つ仕事は、濡れ手にあわか、違法なのでライバルがいないかです。自分の縄張りの中で新しいシノギを開拓するという発想は、あまりない。

それよりも手っ取り早く他団体のシノギを奪いに行く。そうしたら、相手も奪われたくないからやっぱり喧嘩になる。これがもっとも簡単な抗争の勃発のメカニズムです。

【溝口】暴力団は負のサービス産業だと言いましたが、しかしながら暴力団同士がサービスの質を競い合うということは原則しない。競い合いは力関係によるものしかない。

【鈴木】経済規模が小さい地方都市では、同じエリアに複数の暴力団が巣くう状況にはなりません。分け合うだけのシノギではないし、田舎では余所者が入っていっても溶け込めないのです。それに力の勝負だから、負けた組はそこから退散するしかない。

共存なんて話になりません。関東では例外的に縄張りの既得権が認められていますが、それだって建前でしかなく、弱い組織はシノギを奪われます。

金銭を使って平和的に問題を解決するヤクザもいるが…

【溝口】例えば歌舞伎町だと、みかじめ料なんかは早い者勝ちが基本なんです。

先取特権と言いますか、その店に最初につばをつけた者が、みかじめ料の収入を得るという不文律がある。それは鈴木さんが言ったとおり関東のほうが厳格ですが、関西でも、繁華街によってはそういうこともあるはず。しかし、このルールはたびたび崩されていき、抗争が起きることになる。

暗い部屋で札束を渡す男性の手元
写真=iStock.com/Kritchanut
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【鈴木】関西に縄張りが存在せず、力の勝負となっているのは、とどのつまり経済規模が小さいからだと思います。

裏社会でも金持ち喧嘩せずなんです。なんだかんだ言っても東京のヤクザは、金を持っているから余裕があって、ある程度そうやって他団体が進出してきた場合でも、相手の顔を立てて、「いくばくかのお金をあげますから引いてください」といった、平和的な解決で任侠を気取る。大阪ならもし誰かにシノギを取られるくらいなら潰してしまえとなります。

ただ、ヤクザは喧嘩を「マチガイ」と呼ぶ。人間誰しも間違いをする。間違いなら、なにもお互い殺し合わなくたっていい。金で解決だってできるはずというヤクザの智恵です。実際、利益を巡るトラブルはたくさん起きますが、抗争にならずに終わります。マチガイの数なら、シノギのパイが大きい東京が多いかもしれません。

【溝口】暴力的でない解決をする場合も確かにあります。第三者による仲介を立て、手打ちをするというケース。互いに争って損ならば、それは手を打つことだってある。ただそれは例外であって、一般的には相手から押し込まれた場合、跳ね返さないと、その組は立ち行かなくなります。