台湾と韓国の世界二強に出遅れていたインテルが巻き返しへ
インテルの発表によれば、2024年の稼働を目指して既存の生産拠点にパソコン向けのCPUなどに使われる回路線幅7ナノ(ナノは10億分の1)メートル程度の先端半導体を生産する工場を新設する。
これは、外部企業の半導体製造を請け負う「ファウンドリー(受託生産)」で台湾の台湾積体電路製造(TSMC)と韓国サムスン電子という世界二強に出遅れていたインテルが、先端半導体の領域で巻き返しに打って出る巨額投資となる。
この巨額投資で何より世界の半導体業界を驚かせたのは、インテルがファウンドリー事業への参入を表明した点にある。
世界の半導体産業の潮流は2000年に入ってから工場を持たないファブレス化が進み、受託生産に特化したTSMCと、サムスンがその受け皿として飛躍的にその存在感を増した。
半面、インテルは開発から生産まで自前で賄う垂直統合型の事業モデルを貫いてきた。売上高で世界最大を維持しているとはいえ、その結果インテルはTSMC、サムスンに製造技術で立ち遅れ、地盤沈下を招いてしまった。
その打開策としてインテル自らが受託生産に乗り出し、TSMC、サムスンとの真っ向勝負に打って出る戦略は、半導体業界には衝撃以外の何物でもない。
バイデン大統領がサプライチェーンを見直す大統領令に署名
インテルにとって受託生産参入は180度の戦略転換でもあり、それを可能にしたのはインテルのトップ交代にあった。今年2月、インテルに30年従事し、全盛期を知る元最高技術責任者(CTO)のパット・ゲルシンガー氏が復帰し、最高経営責任者(CEO)に就いた。
ゲルシンガーCEOは、新たに参入する半導体受託生産を、米国だけでなく欧州での事業展開も計画し、ファウンドリーを新たな成長戦略に位置付ける。3月23日の新工場建設発表の場でゲルシンガーCEOは「ファウンドリーの大部分はアジアに集中し過ぎだ。地理的バランスが取れた製造能力が必要」と発言し、TSMC、サムスンをけん制した。
しかし、インテルに戦略転換を促したのはそれだけでない。そこには、バイデン米政権による後ろ盾が働いたことは疑う余地もない。
今年1月に政権移行を果たしたバイデン大統領は2月24日、半導体をはじめ米国の基幹産業を支える重要部材4品目のサプライチェーン(供給網)を見直す大統領令に署名した。100日以内に具体策を打ち出し、重要部材の国産化を促す狙いだ。