「米国の国益や価値観を共有しない外国に依存できない」

バイデン大統領による大統領令署名は、トランプ前政権以降、米国との対立が激化する一方の中国を念頭にも置いている。バイデン大統領は「米国の国益や価値観を共有しない外国に依存できない」と明言し、対中強硬路線を鮮明にした。

連邦議会も新型コロナウイルスによるパンデミックをきっかけにしたサプライチェーンの混乱から世界的な半導体不足が米国の国力を低下させかねないと危機感を抱き、本年度の国防権限法に370億ドルの補助金を計上する半導体の支援策を盛り込んだ。

バイデン政権が半導体不足に危機感を抱いている背景には、1990年に世界で37%のシェアを誇っていた米国の半導体生産が2020年には12%まで低下した現実がある。クアルコムなど米半導体大手が軒並み製造部門を持たない、いわゆるファブレス化を進めた結果である。だが、深刻な半導体不足を背景に、今後は自国調達に取り組まざるを得ない。

このため、米国はTSMCが約120億ドルを投じてアリゾナ州に2024年稼働予定の新工場の誘致にこぎつけた。ただ、米国内への半導体供給を台湾の企業に大きく依存する産業構造は、対中戦略という台湾の地政学的リスクを考えれば、危うさが付きまとう。それだけに自国企業インテルが国内での巨額投資、しかも米国内で需要が旺盛な受託生産の受け皿になる意味は大きい。

(TSMC)本社
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EUは約18兆円を投じて、世界シェア20%を目指す

実際、インテルの新工場の記者発表にはレイモンド米商務長官が参加し、「雇用を創出し、安全保障や供給網を強化できる」とインテルの巨額投資をたたえた。それは、バイデン政権が米国の強い産業力の生命線に位置付けた半導体、そしてその盟主、インテルそれぞれの復権をかけた官民一体のプロジェクトのスタートを意味する。

EUも米国と同様に、世界的な半導体不足とアジアに大きく供給を依存する現状に対して危機感を抱く。

EUの行政執行機関である欧州委員会は3月9日、EUとして2030年までのデジタル化の目標を示す「デジタル・コンパス」計画を発表し、域内での次世代半導体生産を拡大し、世界の半導体生産でシェア20%を目指す方針を打ち出した。

EUの2020年の世界生産シェアは10%にすぎない。EUは今後2~3年で、コロナ禍を受けて設けた復興基金の約20%に当たる1450億ユーロ(約18兆円)を投じてシェア倍増につなげようとしている。