東南アジアでは売り場の半分以上が食品
海外事業を本格化させたのは、シンガポールに海外事業本部を設立した13年からである。カリフォルニアとハワイで11店を展開する食品スーパー「マルカイコーポレーション」を買収し、国際店舗網を拡大した。現在、店舗の半分はマルカイブランドのままで、残り半分は「トーキョーセントラル」という新しい食品スーパーのブランドになっている。後者の新規店舗を出店しながら、17年にはハワイの食品スーパー「タイムズ」を買収し、マルカイ、タイムズ両方から食料品中心の小売チェーンが持つべきノウハウを学習していった。
培われたノウハウとその成功体験をもって、17年にシンガポールへ進出。日本国内のドンキは、その独自のコンセプトからインバウンド客にも話題になっていたため、シンガポールでも大好評を得た。とりわけ、焼き芋のように日本らしく、ドンキらしいユニークな商品の展開は、行列ができるほどの人気を博した。その勢いで次にタイへ進出し、19年に1号店、20年に2号店を開いている。
シンガポール第1号店は、ドンキが東南アジア市場で展開するための「実験店」であった。店内には日本の食文化を代表するすしや弁当類、日本から輸入された生鮮食料品や加工食品を加えた。売り場に隣接するカウンターバー「ドリンクドランクドンキ」では、アルコールを注文すればドンキで購入した総菜をつまみに楽しめる。まるで日本の居酒屋のようなのだ。
ドンキの東南アジア事業における新業態の商品構成では、売り場の半分以上が食品で、生鮮や総菜が充実している。これは、食料品中心の総合型小売業態で海外進出を果たしてきた従来のグローバルリテーラーの現地化戦略とは全く異なる。
それまでの現地化戦略では、現地市場に持ち込まれる異質の商品・プロモーション・販売手法と現地の消費者ニーズとのギャップを埋めるため、地元の食材や商品を現地のサプライヤーから仕入れて足元商圏内の消費者にいかに大量販売できるかに焦点が当てられていた。しかしドンキはこのような小売国際化事業における一般常識を無視して、日本製もしくは日本市場向けの商品を低価格でラインアップする「ジャパンブランド・スペシャリティストア」という独自のコンセプトを打ち出した。
食料品を専門品と捉え、生鮮食料品の取り扱いを強化した
さらに生鮮食料品の取り扱いを強化した。生鮮食料品は他の商品カテゴリーより廃棄ロスが多く、複雑な取り扱い技術を要する。ドンキが東南アジアで展開する新業態は、食料品をコモディティ商品ではなく、専門品と捉えている。日本食や料理を通じて、日常だけではなく非日常まで味わうことを可能にしているのだ。また、東南アジア諸国における日本食ブームを外食だけではなく、中食にまで広げたということで、現地の消費者の間で話題を作った。加えて、高所得者層や駐在員の需要を取り込んだ。
※編集部註:初出時、「明治屋は閉店に追い込まれた」とありましたが、事実ではありませんでした。訂正します(4月13日7時48分追記)