「無償化は当然」背景にある性教育の歴史

学生たちが積極的に動き、ついに政府を動かした生理用品無償化の背景には、1990年代に始まった性教育の影響もありそうだ。

1995年、欧州一のエイズ感染国だったフランスでは、1996年に中学校以上の性教育を義務化した。感染抑止策の一つとして、生徒が自由に持ち帰れるように、保健室の入り口にコンドームを置いたり、コンドームの配布機を設置したりもしている。

子どもに人気のキャラクター、titeuf(ティトゥーフ)の性教育の絵本『Le guide du zizi sexuel』(おちんちん性教育ガイド) 写真=プラド夏樹提供
子どもに人気のキャラクター、titeuf(ティトゥーフ)の性教育の絵本『Le guide du zizi sexuel』(おちんちん性教育ガイド) 写真=プラド夏樹提供

2000年からは、「早期妊娠は学業の妨げとなり、ひいては社会の男女平等に影響する」として、中学校・高等学校の保健室でアフターピル(緊急避妊ピル)を提供。それでも、顔見知りの看護師に話したくないという生徒もいるため、2016年からは薬局で年齢証明さえすればアフターピルを無償でもらえるようになった。

2003年には「性について話すことへの羞恥心や罪悪感が植え付けられる前に性教育を始めるべき」という政府の方針で、固定的な男女の役割に疑問を持たせたり、自分の身体をプライベートで大切なものと認識させたりする早期性教育が幼稚園で始まった。

こうして性教育がすべての子どもたちに行われてきたために、男性も、女性の生理についての理解があるようだ。前述のレンヌ第2大学での生理用品無償配布イベントは男子学生の発案だったし、イベントのために学生共済金4万2000ユーロを使用しても男子学生からは「不公平だ」という反対の声は上がらない。

大統領も「黙って見ていることはできない」

国民の税金を使って、ホームレスの女性や全国の大学に生理用品を無償配布することについても、反論はほとんど聞こえてこない。

マクロン大統領は昨年2020年末、オンラインメディアBrut.上で「ホームレスの男性たちは路上の暮らしで、疲労極まり、病気になりがちで、屈辱的な生活を強いられている。しかしホームレスの女性たちは、それに加えてですよ……はっきり言いましょう。生理の貧困、つまりプライバシーがない路上生活でも生理になり、手当てをすることができず、さらに人間として尊厳を奪われている」と、ホームレス女性への生理用品の援助を徹底する姿勢を明らかにした。

大統領はさらに今年2月、「私たちの社会は、これまで可視化されてこなかった学生の生理の貧困を、もう黙って見ていることができない」とツイッターに投稿した。「化粧品を買うお金はあるのになぜ生理用品は買えないのか?」「生理用品を買うことができないなら、まず携帯代を節約しろ」といった言いがかりに至っては、もはや声高に言うこと自体がはばかられる社会になっている。

25年にわたる学校性教育の積み重ねは、生理用品の無償化を男女ともに「当然のこと」「人間の尊厳にかかわる問題」として受け入れる社会を作ることにつながったのではないかと、フランスの性教育を長年観察してきた筆者は感じている。

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