人間の記憶メカニズムに合った方法
いまにして思えば、この方法は、人間の記憶メカニズムから見て合理的な方法である。
人間はきわめて多くのことを記憶できる。問題は、それらの大部分が検索できなくなることにある。つまり、蓄えてはいるけれども、引き出せなくなるのだ。
したがって、重要なのは、対象にいたる道筋をつけることだ。まとまった文章なら、いったんきっかけが見つかると、それを手がかりに、いもづる式に記憶が出てくる。ひとまとまりの文章を全部覚えていれば、どこかの部分を思い出すことで、あとは努力しなくても自動的に引き出せるのである。
孤立した単語を1つずつ覚えようとしても、覚えるのは難しいが、ストーリーがある文章であれば、何度も繰り返し読んだり聞いたりすれば、覚えることができる。丸暗記法は、このようなメカニズムを用いて、単語を文章の中に位置づけて覚えようとする。
試験の直前などで時間がないときでも、できるだけ文章の中に位置づけて覚えるべきだ。最低限、2つ以上の単語を組み合わせて覚える必要がある。
文章を20回繰り返し読む
何度読めばよいかは個人差があるが、普通は20回程度読めば覚えられるだろう。20回繰り返し読むのは、独学でやるしかない。つまり、ここでも外国語は独学でしか習得できない。
20回読まなくとも、1回だけで覚えてしまうこともあるが、覚えようとしてもどうしても覚えられない「鬼門の言葉」というものもある。私は、resilientという言葉をどうしても覚えられなかった(「柔軟な」とか「弾力性のある」という意味)。ところが、「ホーム・アローン」という映画の中で、主人公の男の子がChildren are resilient.(子供は何にでも対応できる)と言っているのを聞いて、一度で覚えてしまった。
そして、決して忘れない。思い出そうとする場合、記憶の中で「弾力性」という日本語の周辺を探しているのではなく、childrenという言葉の周辺を探しているのである。
繰り返そう。孤立した単語や、短い文章を覚えるのは、難しい。一見して無駄に思われるが、ストーリーがある文章を丸暗記するのが、最も簡単だ。