安全規制強化によるコストの高騰

問題はコストの膨張だ。原子力発電所は数十年にわたって、容赦ないコストの高騰を経験している。そのおもな理由は、安全性への警戒が高まっていることにある。そしてこの産業はいまだに、確実にコストを下げるプロセス、つまり「試行錯誤」とまったく無縁である。

原子力の場合、錯誤は影響があまりに甚大になるおそれがあるうえ、試行にはとんでもなくコストがかかるので、試行錯誤を再始動させることができない。そのため私たちは、加圧水型原子炉という未熟で効率の悪いテクノロジーで行きづまり、原発反対運動に反応して不安がる人たちのために働く規制機関の要求によって、そのテクノロジーさえしだいに抑制されつつある。

2013年に運転停止し、2014年から廃炉作業が行われている米カリフォルニア州のサンオノフレ原子力発電所。
写真=iStock.com/MCCAIG
2013年に運転停止し、2014年から廃炉作業が行われている米カリフォルニア州のサンオノフレ原子力発電所。

しかも、きちんと準備ができる前に政府によって世間に押しつけられるテクノロジーは、もう少しゆっくり進行することを許されたなら、もっとうまくやっていたかもしれないところで、つまずく場合もある。アメリカの大陸横断鉄道はすべて失敗し、個人出資の1例をのぞいて結果的に破産している。原子力がこれほど急がず、軍事用の副産物ではないかたちで開発されていたら、もっとうまくいっていたかもしれないと考えずにはいられない。

従来の軽水炉とは異なるアイデアもあった

1990年に出版された『私はなぜ原子力を選択するか』(邦訳:ERC出版)のなかで、原子物理学者のバーナード・コーエンは、1980年代に原発の建設がほとんどの西側諸国で中止された理由は、事故や放射能漏れ、あるいは核廃棄物急増への不安ではなく、規制強化による止まらないコストの高騰だった、と述べている。その後、彼のこの分析はさらに真実味を帯びている。

これは新式の原子力のアイデアが足りないせいではない。エンジニアのパワーポイントによるプレゼンには、核分裂原子炉の異なる設計が盛りだくさんで、なかには過去に実用レベルの試作機の設計までたどり着き、従来の軽水炉と同じくらいの財政支援があれば、さらに先に進めたと思われるものもある。

大別すると「液体金属原子炉」と「溶融塩原子炉」のふたつだ。後者はトリウムまたはフッ化ウランの塩を、おそらくリチウム、ベリリウム、ジルコニウム、ナトリウムのようなほかの元素と一緒に使って機能する。