「尖閣有事」を論じる以前の問題が日本にはある

中国は日米共同演習に対して強く反発するだろう。しかし、この演習が想定しているのはあくまでも、中国軍が尖閣諸島のどこかの島を占領した場合である。武装した民間人が不法上陸するといったような「グレーゾーン事態」では、日米安保条約第5条が適用できないため米軍は介入できない。

危害射撃については「海上警備行動」、自衛隊と米軍の出動については「防衛出動」が発令されている場合の措置だ。ことに「防衛出動」は、明確に侵略と認められない限り発令されず、かなりハードルが高い。

では、中国海軍艦艇が尖閣諸島領海を侵犯していない“平時”に、明確な武装もしていない外国人が尖閣諸島に上陸した場合、どのような対処がありうるのか。

このケースは過去に3回存在する。このときに日本がどのような措置を行ってきたのか。これを振り返ると、「尖閣有事」を論じる以前の問題が横たわっていることがよくわかる。

1996年、大挙してやってきた中国系の活動家たち

海上保安庁によると、1972年の沖縄返還協定による施政権返還後、2004年まで尖閣諸島に上陸した外国人が逮捕された例はない。

尖閣諸島に外国人が初めて上陸したのは1996年10月。主体となったのは、香港、マカオ、中国大陸の団体「保釣行動委員会」だ。日本の政治団体が尖閣諸島の北小島に灯台を設置したことに反発し、香港、マカオ、台湾の議員や活動家など約300人が抗議船約50隻で尖閣諸島へ接近した。

その中で、4人の活動家が魚釣島に上陸。台湾の旗を立て、上陸50分後に自主的に離島した。このとき、日本側は活動家を逮捕しなかった。

その後、2003年に、警察庁や海上保安庁、法務省入国管理局(現・出入国在留管理庁)などは中国や台湾の活動家による抗議行動への対応を検討した。抗議船が接近した場合、(1)巡視船に沖縄県警の捜査員が同乗、海保と共同で上陸を阻止する、(2)上陸を許した場合、石垣島から県警のヘリが出動、身柄確保にあたることなどを決めた。