叶えたい夢はあったが…

貧困ゆえに中高生時代から今に至るまで、友人と梅田にショッピング等で遊びに行くという経験もしていない。青春を介護と子育てに捧げている。通信制高校を選んだのも、十分な学費や受験勉強の時間がなかったからだ。

なつみさんはいや応なしに母親の介護と子育てをしなくてはならない。家族を放っておいて、自分の好きな夢を追いかけるということをティーンエイジャーにして断念せざるを得ない状況にある。だが、それまで全く夢がなかったわけではない。芸能界入りを志向したことがあるという。

「私、演劇部出身で、とてもお芝居が好きなんですよ。自分と違う人を演じるというのが面白いやないですか。それに貧しいから、芸能界に入ると窮地を抜け出せるなあと思って、アイドルのオーディションなどを受けたりしたんですが、とても厳しくてだめでした。プロになるためのレッスンをする教室に通うには、とてもお金が高くて通えません」

と、切実な状況を口にする。加えて、夢を追いかけるにしても、常に「金になるか」という実益を求めなければならない。

「最初のうちは売れなくても良い」とタカをくくってアルバイトと実家からの仕送りで生計を立てるという、よくある芸人志望のようなことは、とてもできない。実家からの仕送りどころか、なつみさんは19歳にして一家の大黒柱なのである。

よく若手の芸人が、「売れない頃は、毎日コンビニ弁当を食べていた」などと語るが、なつみさんに言わせれば、「ぜいたくや」としか言いようがないらしい。

モーニング娘。の大ファンという一面も

だが、そんななつみさんにも普通の女の子と変わらない面がある。モーニング娘。の大ファンで、なつみさんが生まれる前にブレークした市井紗耶香さん、保田圭さん、ゴマキこと後藤真希さんで結成されたユニット、「プッチモニ」の歌を勤務先のコンセプトカフェのカラオケで流すと嬉しそうに歌う。

「友達にモーニング娘。のファンがいて、その影響で私もファンになりました」

そう語るなつみさんは、普通の10代の女の子と変わりがない。

だが、少し話を進めると、「普段はカラオケに行くことはありません。お店でお仕事だからできるんです」と、すぐに生活環境の厳しさを物語ることを言うので、こちらが切なくなってしまう。だが、なつみさんは他人の前では気丈に振る舞っているようだ。

「こういう仕事だし、身だしなみには気をつけています。お洋服は基本お下がりばかりなんですが、それでもきれいなものを着れますしね。あと、お客さんから差し入れてもらった女性向けの付録付きファッション誌の備品なんかを大切に使っています」

と、日々の糊口をしのぎつつ、けなげに生きている。