当事者すら「ヤングケアラー」という言葉を知らなかった
「友達に、USJやディズニーに行ったことがないとか、服がお下がりとか、貧乏な話をすると『ウソ⁉』とよく言われますよ」
そう言いながら、母親の面倒と弟の世話に今日も精を出すなつみさんは、「ヤングケアラー」なる言葉を記者(角田)を通じて初めて知った。
当事者にすら認知度が低いヤングケアラーだが、既に民間福祉団体や政府が動き出している。日本ケアラー連盟の代表理事である牧野史子さんはこう語る。
「厚生労働省も異例のスピードで取り組んでいます。学校にも関わることなので、文部科学省も動いています。貧困問題とも関係した問題ですので、そういう目から学校の先生も子供たちを見て、ヤングケアラーを発見していただきたいです」
ヤングケアラーの定義は、通学や仕事をしながら家族の介護・世話をする18歳未満の子どもだ。19歳になったなつみさんは、「私はあてはまらないのではないか?」と不安を口にした。しかし、厚生労働省虐待防止対策推進室は次のような見解を出している。
「ヤングケアラーは、18歳未満に限定されるかのように言われていますが、国は明確な定義はしていません。今は取りあえず本格的な調査と、ヤングケアラーが生活保護などの福祉支援の手続きを受けられるように促進することを文科省と連携して取り組んでいます」
菅首相の表明はヤングケアラー救済への一歩となるか
このように、厚労省や文科省、民間支援団体が、ヤングケアラー問題を率先して取り組んでいる一方で、福祉事業者からは以下のような声も多い。
「ヤングケアラーという言葉は知っているが、具体的に支援策を取り組んでいる事業者はまだ知らない。少なくとも私の知る限りはないですね」
その理由について先述の牧野さんは、「国の政策がないので、ヤングケアラーを本格的に支援する福祉事業者さんはまだないようです。埼玉県で昨年3月に支援条例ができましたが、国の政策はまだこれからですからね」と話す。
3月8日に、菅義偉首相がヤングケアラー支援について「しっかりと取り組む」と表明した。この表明が、ヤングケアラー問題を解決に導く政策への一歩となることを期待する。
神戸市は久元喜造市長の肝いりで、4月からヤングケアラー支援専門の対策部署を設置することになった。こうした試みは全国の自治体で初めてである。神戸市福祉局政策課政策係長の平井美知子さんは次のように話す。
「各部署の課長クラスの職員を配置する予定です。どこの部署から異動してくるかはまだ分かりませんが、昨年11月からヤングケアラー対策を福祉局、教育委員会、こども家庭局、保健局といった複数の部署が連携して対応してきました」
どのような行政支援策が行われるかが、注目される。
なつみさんのような若者たちに一日も早い支援が届くことが、官民問わず望まれている。