半グレの最大の武器は匿名性のはずだったが…
2019年7月27日に放送された、半グレを追ったNHKスペシャル『半グレ 反社会勢力の実像』もまた、一般の「半グレ観」に大きな影響を与えました。番組には大阪の半グレ2人が、顔も名前も出して登場します。堂々とインタビューにも答え、ルックスも良い。いかにも女性にモテそうな感じです。実際に番組では彼らの「ファン」という女性が地方からわざわざ会いに来る様も紹介されていました。
「高級ブランド品で固めた自身のコーデや毎晩飲み歩く派手な姿を(インスタグラムに)投稿し続ける……『今風』で、不良漫画から飛び出してきたようなアウトローといった印象を視聴者はもったはずだ」(NEWSポストセブン2019年8月17日)
2人が取り仕切る半グレ集団はアマチュア格闘技集団から派生したグループでした。そのアマチュア格闘技集団の名は「強者」といい、2013年2月に解散しています。
暴力団とは異なり、半グレの最大の武器は匿名性のはずでした。公共の放送で顔を知られたらシノギが出来なくなります。そもそも警察がこのような形での露出を座して眺めているはずはない──そう考えていたら、案の定、2人はその後、大阪府警にそれぞれ恐喝未遂などで逮捕されました。
「半グレ」は半分カタギなどではなく明らかに犯罪・非行集団
NHKスペシャルは半グレを「不良漫画から飛び出してきたアウトロー」のように伝えたきらいがあります。制作者にはそのような意図はなかったかもしれませんが、番組を見たかなりの人にそういう印象を与えたのは事実です。
しかし、筆者から見てもやはり「半グレ」は、明らかに犯罪・非行集団です。半分カタギで半分犯罪者などはいない。社会的弱者の命金を狙うオレオレ詐欺に代表される特殊詐欺がハーフクライムなら、フルクライムとは余程凶悪な「強の付く」犯罪しか残らなくなってしまいます。路上で殴打した、女性にわいせつなことをしたなどは犯罪の内に入らなくなってしまうかもしれません。
しかし、犯罪に半分も全部もありません。故意または過失によって他人に何らかの損害を与える行為は、不法行為であり全て歴とした犯罪なのです。暴力団の取材を重ねるうち、昨今の裏社会に言及する上では、ますます半グレのことも避けて通れなくなってきました。
「半グレ」という用語を最初に提唱した溝口氏がリアルに描き出したガチな半グレとは異なり、筆者が接したのは現代風ともいえる半グレがほとんどでした(本書は学術的な研究書ではないので、知見などの一般化は意図していません。筆者がインタビューした限定的な範囲で、半グレの実態を紹介し、筆者なりの見解を述べたいと思います)。