好記録、最大の要因はレースコンディション
本レースでは、鈴木の2時間4分台を筆頭に土方英和(Honda)、細谷恭平(黒崎播磨)、井上大仁(三菱重工)、小椋裕介(ヤクルト)の4人が2時間6分台をマークした。日本人選手だけで40人がサブテン(2時間10分切り)を達成した。これは瀬古リーダーが「世界のマラソンを変えた」と言うほどの“記録ラッシュ”だった。
びわ湖の優勝記録は過去3年間が2時間7分台で、14~17年が2時間9分台。いずれも外国人選手が制している。大会記録は2時間6分13秒(ウィルソン・キプサング)で、日本人最高記録が2時間7分52秒(油谷繁)だったことを考えると、今大会の好記録は突発的だったと言ってもいいだろう。
なお日本人選手のサブテンは2016年が6人、2017年が9人、2018年が16人、2019年が8人、2020年が29人。同一レースでは昨年の東京で19人がサブテンを果たしているが、今回のびわ湖はそれ以上になった。従来の感覚よりも全体的に2分ほど速かった印象だ。
マラソンは気温、湿度、日差し、風、レースペースがタイムに大きく影響する。今回は気象条件が絶妙だった。スタート時の天候は曇り、気温7.0度、湿度57%。ゴール付近となった11時20分は気温10度、湿度50%と非常に走りやすかった。
今回のびわ湖はスタート時間と日程が変更しており、それが好条件につながった。例年は午後スタートだったが、午前のほうが午後よりも風が穏やかな傾向があるため、前回から朝9時15分スタートになった。日程も例年より2週間前倒しとなる2月末に開催されたことが気温に影響したはずだ。
例年は2月前半に別府大分マラソン、3月上旬に東京マラソンが開催されていたが、コロナ禍の今年は両大会が延期した。その結果、国内トップクラスが出場するレースがびわ湖に“一本化”したかたちになり、例年以上に有力選手が集まったことも大きい。
またコロナ禍で海外から招待選手を呼ぶことができなかったのもプラスに作用した。通常は目玉選手の要望を考慮してペースメーカーのタイムが決まるが、今回は日本人選手に合わせるかたちで日本新ペースになったからだ。そしてペースメーカーも予定通り「キロ2分58秒」で進み、選手たちを好アシストした。
厚底シューズの威力も凄まじかった
近年は厚底シューズがスタンダードになり、世界のマラソンは高速化している。今回のびわ湖もナイキ勢が上位を独占した。鈴木が着用していたのは「エア ズーム アルファフライ ネクスト%」。1年前の東京マラソンで大迫が履いていたモデルと同じで、今冬の駅伝に向けて発売されたEKIDEN PACKの新色だった。
鈴木は大学4年時に初マラソンに挑戦している。設楽悠太(Honda)が16年ぶりの日本記録(当時)となる2時間6分11秒を叩き出した2018年の東京マラソンだ。日本人選手9人がサブテンを果たすなど、当時は歴史的レースと報じられた。なお当時、鈴木は東京でアシックスの薄底シューズを履いていたが、今回のびわ湖はナイキの厚底シューズで大幅ベストを更新したことになる。
今回は1~9位を含むサブテンの大半がナイキ厚底シューズを着用していた。そのなかで8年ぶりの自己ベストとなる2時間7分27秒で10位に入った川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)の足元にも熱視線が集まった。
川内は学生時代から薄底タイプを愛用してきたが、今回はアドバイザリー契約を結んでいるアシックスの厚底シューズ(一般発売前のモデル)で出走。2013年のソウル国際でマークした2時間8分14秒の自己記録を大きく更新した。快走の要因については、「こんなことを言うのはあれなんですが、厚底に変えたのが大きいのかなと思う」とレース後に話している。
今回の結果を見ると、絶好のコンディションとシューズの進化が噛み合ったときの“記録向上”はまだまだ予想できない範疇にあるといえるだろう。
なおナイキは日本記録を2度塗り替えた「エア ズーム アルファフライ ネクスト%」の新色(ハイパーターコイズ)を今月から発売。またアッパー部分を改良して、前足部を補強した「ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト% 2」を4月15日に発売予定している。