※本稿は、水野和夫・古川元久『正義の政治経済学』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
資本は暴走するものだから、ブレーキが必要だ
【水野】人間が本質的に〈進歩〉していないと感じるのは、昨今の資本の暴走について考える時に、より強く実感できます。
古来、多くの人々が警鐘を鳴らしてきましたよね。「資本は暴走するものだから、どこかでブレーキをかけなくてはいけない」と。
アダム・スミスしかり、マルクスしかり、ケインズしかり、ディドロやトマス・アクィナスしかり。本来は人を豊かにするはずの〈資本〉が、時に貧富の差を生み、暴走してしまう。それを防ぐための方法を多くの人が考えてきました。
ところが「新自由主義経済」が主流になった1970年あたりからでしょうか。先人たちの警告が忘れ去られ、再び資本の暴走が始まってしまいました。「市場が倫理だ」「市場で決める価値が倫理である」という説がまかり通るようになってしまった。
【古川】行き過ぎた〈自由〉は、苛烈な競争を生み、そこから脱落する人々を、大勢出してしまいましたね。
世界の最富裕層の財産総額は、最貧困層の財産より多い
【水野】現在、世界の最富裕層(ビリオネア)は、たったの2189人です。
しかもその総資産額は、今夏、過去最高の10兆2000億ドル(約1081兆2300億円)に達したという。2020年の4月から7月の間で27.5%増えているんですよ。コロナ禍のせいで、「絶好調」だというわけです。彼らのこの財産総額は、最貧困層46億人の財産より多い。
46億人ってどれくらいの規模かというと、全人類の約6割ですよ。地球に生きる6割の人々のなけなしの全財産をかきあつめても、2000人ちょっとの財産に負けるなんて世界、あまりにいびつではありませんか。
ローマ帝国のネロの時代には、北アフリカの領土はたった6人の地主が支配していたそうです。あの広大な大陸を6人が支配していたとは驚きですが、そんな時代に呆れる資格が今の私たちにあるのかどうかといえば、分かりません。西暦64年に起きた「ローマ大火」はネロの放火説がうわさされ、ネロは「燃えろ、燃えろ」と喜んだといわれていますが、そんな狂気は現代にも受け継がれているのです。
【古川】現代の富の不均衡をもたらしたのは、〈新自由主義〉と〈自由貿易論〉、そして〈グローバリゼーション〉の台頭だと、水野さんは以前から指摘されていますね。
【水野】ええ。いずれも「自由」という言葉を使っているので響きがいいんですよね。でも今、それらがもたらした悪影響は、無視できない段階まで行き着いています。