※本稿は、伊藤羊一『ブレイクセルフ 自分を変える思考法』(世界文化社)の一部を再編集したものです。
数年前まで「社会になじめない」と思っていた
僕がコミュニケーションを苦手としていて、人見知りであるということも繰り返し言っている。
もっと根本的な話をすると、
「社会になじめない」
「社会に受け入れられていない。疎外されている」
という感じが、僕には常にあった。
これは、僕にとっては深刻な悩みだったけれど、決して特殊な悩みではないんじゃないか、と思う。程度の差こそあれ、誰でも感じることがあるんじゃないだろうか。
この感覚は、学生だった頃から、ほんの数年前まで続いていた。今でも、根っこの部分は残っている。
社会になじめない。どうも疎外されている感じがする。それはもちろんつらいことだ。だから、どうにか仲間に入れてほしい。
仲間に入れてもらうためには、何かをやらないといけない。
10年ほど前のこと。前述したように、ソフトバンクアカデミアに参加することになって、200人くらいの参加者が集まったときのことだ。
僕は、そこで名刺を配りまくった。もちろん、仲間に入れてもらいたいからだ。
参加者の年齢はまちまちで、自分より年下の人もたくさんいた。その中で40歳を超えていた僕は、「伊藤でございます」と頭を下げて名刺を配りまくった。
初対面の人がたくさんいる場所で、泰然自若としていられる人は羨ましいと思う。自然に近くの人に話しかけられて、話し相手がいないときにはさりげなくひとりでいられる。わかりやすく言うと、パーティーが得意な人だ。
居心地が悪いから、ひたすら名刺を配った
僕はその正反対のタイプだ。初対面の人と話すのが苦手で、そのくせ、ひとりでいると「誰にも話しかけられないかわいそうな人」と見られやしないか……と自意識過剰になってしまう。こういう場はとにかく居心地がわるい。といって、まわりの人と気の利いた会話をすることもできない。そんなネタも持っていない。
だったら、とにかく挨拶するしかないだろう――そう思って、僕は名刺を配って回った。200人はいた参加者に、片っ端から「伊藤でございます」と挨拶していった。
結局ソフトバンクアカデミアでは孫さんに直接何回もプレゼンをすることができたし、仲良くなった人もたくさんいた。
後になってよく言われたのは、「あの時、伊藤さんはすごかったよね」ということだった。
「え? 何が?」
「最初に集まったとき、あんなにいろいろな人にペコペコしながら『伊藤でございます』って挨拶するって、ベテランなのにすごいよね」
これは意外な評価だった。別に、すごくない。僕には、疎外されるんじゃないかという不安があって、知り合いになるとか友達になるといったことに極端に恐怖心がある。だから、できることを――この場合は「伊藤でございます」と名刺を配ることを、一生懸命やっただけだ。