役職定年で「ただのおじさん」になった後が大変
【白河】そもそも皆さんにとって、「おじさん」とはどんなイメージですか。
【中田】やはり固定概念が強くて変化を拒む、という感じでしょうか。
【根本】「過去の栄光に囚われている人」は多いですよね。しかもある程度の年齢で偉くなってしまったおじさんは、実務を部下やアシスタントに任せて自分は手を動かさなくなるので、役職定年を迎えて「ただのおじさん」になったときに大変だなと。今さら自分で手を動かすこともできないので、「口ばかりで仕事をしていない人」と見られてしまいそう。
【伊藤】私は「アップデートできない人」というイメージかな。先ほどの話にもあったように、自分が上司に受けてきたパワハラ的なコミュニケーションから抜け出せないおじさんは多いのですが、「それはパワハラになるからダメですよ」と言われても、「じゃあ、どうすりゃいいの?」と言う反応しか返ってこない。自分で考えて新しいやり方にアップデートすることができないんです。だから最近はハラスメント研修で、具体的なコミュニケーションの方法まで詳しく教えています。「説明するときはきちんと理由を話す」とか「他人と比較しない」とか。
部長の研修効果は低いので、課長から変えていく
【中田】でも、研修を受けても「いやいや、俺はちゃんとできてるから」と言って変わろうとしないおじさんっていませんか? こちらは「できていないから教えるんですよ」と言いたいけれど、本人には悪気がないから難しくて。
【伊藤】わかります。パワハラの加害者になるのがまさにそのタイプですから。自分を客観視できないんですよね。だからパワハラを指摘しても、「俺は怒鳴ってない!」って怒鳴るという(笑)
【中田】だから最近は経営トップと相談して、「部長職はこれまでの成功体験にしがみつくマインドが強すぎて研修をやっても効果がないから、その下の課長職から変えていこう」という方針になりました。そして部長職で明らかに問題がある人は、ポジションを変えたり落としたりするしかないだろうと。
組織をダメにする「仕事ができる有害人材」
【白河】問題のある人物をそのままにすると、職場全体に悪影響が及びますからね。ハーバードビジネススクールの論文で、「有害人材で業績の良い人を雇った場合と雇わない場合のコスト比較」について書かれた論文があるんです(※1)。それによれば、有害人材はチームの生産性を下げるし、周囲も有害人材にしてしまう。だから飛び抜けて優秀なスーパースター人材を雇うよりも、有害人材を雇わないことに注力した方が組織のパフォーマンスは上がるそうです。ある鉄工所がパフォーマンスの高い有害人材を解雇したところ、「1カ月もすると作業者の時間あたりの出荷単価が4割も向上し、以前よりも経営状態が上向いた」と述べられています。
【根本】わかります。パワハラをするような有害人材がいると、周囲はビクビクしちゃって何も言えない。でも本人は周囲を強制的に動かして会社から与えられたゴールを達成するから、上からは仕事ができる人間として評価されたりしますよね。
【白河】仕事ができる有害人材……。これが日本の組織のパフォーマンスを下げている潜在的な原因かもしれないですね。
[1]Housman, Michael, and Dylan Minor. "Toxic Workers. " Harvard Business School Working Paper, No.16-057, October 2015.