緊急地震速報と地震予知は違う

緊急地震速報は、震源地から地震が発生した直後に出されます。そのために地震が起きる前に情報を出す「地震予知」とは区別されています。テレビ、ラジオ、スマートフォン、専用の端末機器などを通じて、揺れの始まる数秒から数十秒ほど前に、揺れの大きさ(震度)や地震が起きた場所(震源)を伝えます。

はじめに気象庁から発表され、気象業務支援センターを通じて一般利用者に配信され、さらに企業や家庭の末端利用者へ2次配信が行われる仕組みです。緊急地震速報は最大震度が5弱以上の揺れを観測したときに発表されます。揺れの直前や揺れている最中に、リアルタイムで情報を伝達する、という点が最大の特徴です。

緊急地震速報の根底には、自分の身を自分で守るという発想があり、現在さまざまな場所で活用されています。エレベータの運行停止、ガスの元栓の遮断、工場の生産ラインの停止、避難路の照明を自動で点灯、などが挙げられます。

ここで緊急地震速報の仕組みを具体的に見てみましょう。地下で地震が起きると、P波と呼ばれる小さな揺れと、S波と呼ばれる大きな揺れが同時に発生します(図表2)。

懐中電灯
写真=iStock.com/Wako Megumi
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緊急地震速報のおかげで3.11でも脱線する新幹線はなかった

P波は毎秒7キロメートル、S波はこれよりも遅く毎秒4キロメートルの速さでやってくるので、どの地域にもP波がS波より早く到着します。そのために英語で「最初に」の意味のPrimaryを用いてP波、また「次に」を意味するSecondaryを用いてS波と呼ばれているのです。

まず地震が起きる震源近くで、最初の小さな揺れのP波をキャッチし、大きな揺れのS波が到達する前に知らせるシステムを設置します。P波とS波の伝搬速度の差を利用することで、数秒から数十秒の間に地震の規模や震源を予測し、到達時刻や震度を発表しようというきわめて高度な技術です。

実際には、震源に最も近い観測点で地震波を捉えた直後から、震源の場所やマグニチュードなどの推定を始めます。マグニチュードや最大震度があらかじめ設定した基準を超えた瞬間に、緊急地震速報の第一報が発表されます。

その後、時間の経過とともに、少し離れた観測点でも次々と地震をつかまえます。こうして増えたデータをもとに再計算を行い、精度を上げた第ニ報以降を、複数回にわたり発表していくのです。まさにコンピュータが得意とする仕事です。

この方法を用いて、東日本大震災の直後に運転中の東北新幹線では、すべての車輛にブレーキがかかって大きな事故を回避できました。「早期地震検知システム」と呼ばれるものですが、最初の揺れが来る9秒前、また最大の揺れが来る1分10秒前に非常ブレーキがかかり、新幹線はただちに減速を始めたのです。地震発生時に東北新幹線は27本の列車が走行中でしたが、幸いどの列車も脱線することなく停車しました。

JR東日本は、東北新幹線の沿線と太平洋沿岸に地震計を設置しています。地震によって地面の動く加速度が120ガルを超えると自動的に電気の供給が遮断され、走行中のすべての新幹線では非常ブレーキがかけられます。こうして高速運転中の脱線による大事故を未然に防ぐことができたのです。