大きな地震でも緊急地震速報が出ないときがある

ところで、緊急地震速報には弱点もあります。大きな地震の直前に、緊急地震速報が出るときと出ないときがあるのです。たとえば、地震の震源に近い地域では、緊急地震速報の前に強い揺れのS波が来てしまい間に合わない。また、短時間の限られたデータを解析した速報であるため、予測した震度が実際の震度と異なる、という技術的な限界もあります。

東日本大震災が起きてから、緊急地震速報が出される回数が非常に増えましたが、速報が出ても揺れを感じないことを何度も経験した方がおられるでしょう。いわゆる緊急地震速報の「空振からぶり」です。

気象庁は、緊急地震速報を受け取ったすべての地域で、震度3以上を観測した場合は「適切」とし、1つでも震度2以下を観測した場合は「不適切」と評価しています。調べてみると、これまでに出された6割ほどが「不適切」なものでした。つまり、東日本大震災以降に精度が大幅に落ちたのです。

「空振り」も「見逃し」よりはマシ

これはマグニチュード9.0という巨大地震の発生により余震が多発し、離れた場所でほぼ同時に余震が到達したことがその原因です。現在のシステムでは、複数の観測データの分離がうまくできず、緊急地震速報の空振りがゼロにはなりません。

2020年7月30日に関東甲信、東海、東北地方で緊急地震速報の「誤報」が発生し、気象庁が会見でおわびしました。その原因は、緊急地震速報の処理過程で本来の震源と異なる位置に震源を決定しマグニチュード7.3という過大な値が出たからです。

もしこのような状況が頻発するとすれば「オオカミ少年効果」が生じて、地震への警戒感が薄れる恐れが出ます。しかし、緊急地震速報は一刻も早く予測を出すためのシステムであり、「空振り」があることよりも「見逃し」の少ないことを重視すべきだ、と私は思います。

たとえば、SNSでは先の事例でも「誤報でよかった。危機感が出て身構えます」「謝罪なんていいんです。逆のことが起きるよりよっぽどマシ」という意見が多かったそうです。

緊急地震速報を受けたあと揺れが来るまでには、ごくわずかな時間しかありません。速報が出たら自分の身を守ることを第1に行動し、大揺れが来なかったら「よかった」と思っていただきたいと考えています。