「箱根駅伝だけで終わってはいけない」と考えるランナーの特徴
箱根駅伝でヒーローになると、良くも悪くも、その後の人生が変わってくる。実力以上に注目を浴びた選手は実業団で苦労するケースが少なくない。その逆に箱根駅伝の活躍を次のステップにつなげている選手もいる。
昨年、花の2区で約15kmにもわたる壮絶バトルを演じて、ともに日本人最高記録を大きく更新した東洋大・相澤晃(現旭化成・23歳)と伊藤達彦(現Honda・22歳)は駅伝での快走を自信に変えた選手たちだ。ふたりは設定していたタイムを大幅に上回るようなハイペースで突っ込んで、箱根駅伝の歴史を塗り替えた。
社会人1年目の今季は10000mで27分台に突入すると、12月4日の日本選手権10000mでは、相澤が27分18秒75、伊藤が27分25秒73をマーク。ともに日本記録(27分29秒69)を上回り、東京五輪参加標準記録(27分28秒00)もクリアした。
10000mの日本記録保持者となり、同種目で東京五輪代表が内定した相澤は、「今回走ってみて26分台も見えないところではないなと感じています。伊藤君もレース後の会見では『26分台』という言葉を出しています。自分も負けられないと思いますし、当分抜かれないような記録を作りたいですね」と話している。
10000mで世界と戦うのは簡単ではないが、相澤は東京五輪で「入賞」という目標を掲げている。そして競技人生の最大目標は、「五輪マラソンのメダル」獲得だ。箱根から世界へ、羽ばたく準備は整いつつある。
学校のPRに貢献するため“箱根至上主義”になりがち
毎年のようにヒーローが現れる箱根駅伝だが、実は“ネガティブな戦い”になりがちだ。ほとんどの選手が設定タイムを定めており、「1秒でも速く」というより、「確実に走る」ことにプライオリティが置かれているからだ。
ソウル五輪の5000m・10000m日本代表で、拓殖大で13年間の監督経験がある米重修一を取材したとき、近年の箱根駅伝について次のように疑問視していた。
「単純にレベルは上がりました。でもこの中から10000m26分台ランナーが出るのか心配になりますよね。監督時代、突っ込んでブレーキすることは怒らなかったですけど、イーブンペースで行くような選手が大嫌いでした。そんな駅伝をやっていたら世界で勝負できませんから」
大学側もOBが五輪選手になるより、箱根駅伝で結果を残したほうが、学校のPRになる。そのため“箱根至上主義”に自然と傾いてしまう。将来、世界と本気で戦うことを考えると、選手たちの意識以上に、指導者たちの“目線”が大切になる。
大学卒業後も競技を続ける選手たちは、箱根駅伝が競技人生のピークであってはならない。学生時代から高い目標を掲げて、キャリアを積み重ねる選手が次々と現れれば、日本長距離界の未来は明るいだろう。