箱根駅伝で輝きを放った選手が、実業団で“失速”してしまうケースが多いのはなぜか。スポーツライターの酒井政人氏は「大学時代に箱根駅伝だけではなく、“世界”を見据え高い目標を掲げてキャリアを積み上げていく。その姿勢の有無が、社会人になっても成長を続けられるか否かの分かれ目」と指摘する――。
1区、スタート直後のカーブで力走する選手たち=2021年1月2日、東京都千代田区[代表撮影]
写真=時事通信フォト
1区、スタート直後のカーブで力走する選手たち=2021年1月2日、東京都千代田区[代表撮影]

大学時代にチヤホヤされた箱根ランナーが実業団で伸び悩むワケ

正月の箱根駅伝は見る者を魅了するスポーツイベントだ。毎年25%を超える視聴率をたたき出し、学生ランナーたちの懸命な継走に涙する者もいる。今年もドラマチックな戦いが繰り広げられた。伏兵・創価大が4区で首位を奪って独走すると、全日本王者・駒大が最終10区で劇的な大逆転を演じている。

一方で箱根駅伝よりレベルの高い全日本実業団駅伝(ニューイヤー駅伝)はどうか。今年は富士通が旭化成の5連覇を阻止して、12年ぶりの優勝を飾った。こちらも見応えのあるレースだった。しかし、箱根路の強烈な“輝き”のせいで、駅伝ファンの話題をさらうことができなかった。

陸上競技を20年以上取材してきて強く感じるのは、日本人にとって箱根駅伝は“特別”だということだ。高校野球の「甲子園」と同じような存在感がある。

不思議なことに、「駅伝日本一」を決める全日本実業団駅伝よりも、学生の関東ローカルの大会である箱根駅伝のほうが取材メディアは圧倒的に多い。しかも大会のずっと前から、「箱根取材」は始まっている。

5月の関東インカレ、9月の日本インカレでは、選手が取材を受けるミックスゾーンが大混雑する種目がある。長距離種目だ。それも、入賞すらできなかった学生ランナーにまでカメラを向けてインタビューをしているのだ。過剰報道が箱根ファンを増やしているが、そのせいで自分の実力・人気を勘違いしている選手もいる。