企業より家計の収入を上げたほうがうまくいく

本稿で主張しているような「お金を新たに作って個人に直接配る」というのは「ヘリコプターマネー」などと呼ばれることもありますけれども、文字通りヘリコプターからお金をばらまくようなイメージです。そういう政策が必要だという話なんですね。

財布
写真=iStock.com/flyparade
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個人に直接配れば、賃金が増えなくても収入が増えているから、生活は苦しくならない。しかもばらまくことによって個人の収入が増えるわけですけれども、その収入の増え方よりもインフレがひどくなることは一般的にはありえません。

なぜなら、配ったお金が全部使われるわけではなく、貯蓄に回す人もいるからです。その分、物価に対する上昇圧力というのは減ります。ですから「お金をばらまいたら、インフレが起きて生活が苦しくなる」という心配はありません。もちろん、ハイパーインフレを起こすほどばらまいてはいけません。

「企業の収入を上げるよりも、家計の収入を上げたほうがうまくいく」ということも言えます。企業の収入が上がっても、結局は内部留保などとして貯め込んでしまう。企業の持っているお金がどんどん増えても、人々の生活には反映されないという状況が、このところずっと続いていたわけです。

もっとも、今はコロナ不況で企業に対する支援も必要なんですが、そこをちょっと抜きにして考えると、いかに企業を支援して政府がお金を配ったとしても、結局はただ貯め込むだけで、賃金を引き上げる方向には向かないんですよね。デフレマインドが企業に染みついていますから。

人々に直接お金を配ったほうが個人消費は伸び、実体経済が動く

ベーシックインカムや、今回みたいな現金給付といった政策に対する批判として「ばらまきは良くない」といった批判が出てきます。でも政府はこの間ずっと、企業に対してはばらまきをやってきているんです。日銀やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がETF(上場投資信託)を買って、株価をつり上げて……というようなことをやっているわけです。

それならば、人々に直接お金を配ったほうが個人消費は伸びます。実体経済は、そちらのほうがちゃんと動くでしょう。

日銀のETF買いを私は全面否定しませんが、あまり筋のいい政策ではないと思います。なぜなら、投資は儲かるも儲からないも自己責任ですよね。それを政府が儲かることを保証するのはいかがなものかと思います。それはちょっと不公平なんじゃないか。だったら、そのお金を普通の家計、人々の生活を守るほうに使うべきではないでしょうか。

もちろん「株価がダダ下がりして、マクロ経済が破壊されて、もう日本全体が立ち行かない!」というところまで行ったら、それはちゃんと救済するべきだと思いますけれども。そこまでいかないのであれば、ETF買いは実態をごまかしているだけ。温度計をゴシゴシこすって温めて、それで示す温度がギュッと上がって、「ほら、部屋が暖かくなったでしょ」と言っているようなものです。

要するに、順番が違うんですよ。実体経済が良くなれば株価も上がります。それなのに、株価だけ上げてどうするの? ということです。「温度計の温度だけ上げてどうするの? 室内をちゃんと暖かくしないと、どうしようもないじゃないか」ということです。