3 定年退職後の企業戦士

日本型雇用の崩壊が叫ばれて久しいが、それでも日本は依然企業社会であり、高度成長時代末期に大企業に入社した企業戦士たちは、ゼロ年代後半以降一斉に定年退職してリタイアした。所謂「団塊の世代の大量退職問題」である。

彼らは日本経済が高度成長から中成長、低成長となった時代に私企業で働き、日本経済の下支えに貢献した。彼らはすでに、終身雇用の中で購買した自己所有の不動産ローンを払い終えている場合が多く、また子弟のある場合はすでに社会人となっている場合が多いから、経済的安定を得ている。加えて退職金を正当に受け取っており、貯蓄額も多い。

それまで、企業の中で企業戦士として働いてきた彼らが加齢し、現在60代後半から70代になっている。実は、中小・零細企業を経営する自営業者と並んで、ネット右翼の世界において主力になってるのは彼らの階級である。

彼らは、特にインターネットリテラシーが乏しい。日本におけるネット文化は、パソコン通信から出発し、現ソフトバンクが2000年代にADSL事業を大々的に展開するまで、極めて低速のナローバンドで、動画文化とは程遠かった。この頃、デジタルデバイドという言葉が盛んに言われるようになった。つまりデジタルツールにおける格差が世代間において顕著になっている、という意味である。

ゼロ年代前後のネット普及率は、移動体通信を含めて圧倒的に青年層に偏っており、特に高齢者の著しく低いネット普及が課題とされた。

「定年」と「インターネットのインフラ整備」の時期が重なった

しかし現在、国民皆ネット時代となり、定年を迎えたかつての企業戦士が、ごく簡便に家庭で高速回線に接続できるインフラが整備された。高速ネットで最も変化したのは、ネット動画の存在であった。1990年代後半、テキストサイトが隆盛したのは回線速度が低く、画像や動画の読み込みにストレスが多かったからだ。

2000年後半以降、団塊の世代が大量退職すると同時に、日本のネットインフラはADSLから世界的に見ても超高速で廉価な光ファイバーが主力となった。ネット動画が雨後の筍のごとく現れ、YouTubeが日本に上陸した。日本経済を下支えした企業戦士は、それまでネットへの接触は疎かった。

当然の事、管理職になっても激変する日本経済の情勢に即応するべくその職務は多忙を極めた。しかし彼らが定年を迎える時期と同時に高速回線が普及すると、彼らはナローバンドの時代を通り越して、クリック一回で再生できる高精細のネット動画に魅了された。