日本進出をもくろむTSMC

コロナショックの発生によって、わが国企業が持つ微細な原材料の創出技術や、高度なすり合わせ技術の重要性は一段と高まった。テレワークの導入やITプラットフォーム上での動画視聴やネットショッピングの増加によって、世界的に半導体やパソコンなどの生産が増えた。中国では自動車のペントアップディマンドも発現した。それが、半導体の需給を逼迫させ、関連する原材料への需要を支えている。

また、工場の自動化に必要な工作機械や制御動作に関連する装置分野でも、わが国は世界の需要を取り込んでいる。TSMCはわが国での工場建設を目指している。その理由は、より効率的に高純度かつ微細な半導体関連の部材を調達するだけでなく、半導体製造装置や各種精密機械メーカーとの連携を強化して、ファウンドリー企業としての総合力を高めるためだ。

また、大量の電力供給や制御を行うパワー半導体分野では、わが国企業が世界の3割程度のシェアを確保していると考えられる。パワー半導体分野でわが国企業は、高熱への耐性向上や電力損失の抑制を実現する原材料の開発などに取り組み、国内自動車メーカーの要求に応えてきた。それはパワー半導体市場でのシェア維持を支える要素の一つといえる。

日本企業が生き残る方法は

コロナショックによって加速したDXは、さらに勢いを増すだろう。半導体需要は増加し、機能向上の重要性も増す。それを支える要素は多い。米国やEUなどは環境政策を推進し、再生可能エネルギーの利用増加を目指す。自動車の電動化、ビッグデータの分析による需要創造、工場や家庭でのIoT(インターネット・オブ・シングス)技術の導入も半導体需要を押し上げる。逆に言えば、半導体の機能向上は人々のより良い暮らしに不可欠だ。

それは、わが国にとってチャンスだ。わが国には、他国にはまねできない微細かつ精緻なすり合わせ技術がある。それを新しい発想(ソフトウエア)と結合することによって、企業が新しい人々の生き方という意味での需要創出を目指すことは可能だ。

品川インターシティCタワー品川テクノロジーセンターの技術棟の前にあるソニーのプレート=2011年
写真=iStock.com/MMassel
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良い例に、ソニーのEV試作車である“VISION-S”の試験走行がある。ソニーは、モノづくりの精神を磨き、画像処理を行う“CMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサー”の需要を取り込んで業績を立て直した。強みを新しいコンセプトの自動車創造に用いることによって、ソニーは人々に新しい生き方を提唱しようとしているように映る。